本邦における低亜鉛血症患者数は約6.8万人(低身長:約0.7万人、味覚障害:約4万人、慢性肝疾患:約2.1万人)と推定されており、亜鉛不足の患者は決して稀ではなく、診断されていない多くの患者がいると考えられています。
亜鉛欠乏症は、良く知られている味覚障害以外に、亜鉛欠乏性貧血、皮膚炎、口内炎、脱毛症、難治性の褥瘡、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、不妊症、易感染性、低アルブミン血症、慢性下痢、免疫機能障害、神経感覚障害、認知機能障害など多彩な症状があることが分かってきました。
また、亜鉛欠乏を合併する全身疾患として、糖尿病、慢性肝疾患、炎症性腸疾患、ネフローゼ症候群・腎不全・透析などが報告されています。
偏った食事や、極端なダイエットにより亜鉛の摂取量が不足していると近年指摘されています。
亜鉛は肉類や魚介類などに多く含まれています。
また、食物繊維や青菜に含まれるシュウ酸は亜鉛の吸収を阻害するため、肉類や魚介類を食べないベジタリアン、ビーガンなどは不足しやすいミネラルと言われています。
亜鉛の摂取量不足だけでなく、亜鉛の吸収を阻害する食品添加物(ポリリン酸など)を含む加工食品やレトルト食品を多く利用することも、亜鉛不足を招きます。
さらに、お酒をよく飲む方も注意が必要です。
アルコールの代謝に関わる酵素は、亜鉛を材料としています。
お酒を飲むことで体内の亜鉛が使用されるだけでなく、アルコールは尿中への亜鉛の排泄を促します。
亜鉛は汗や尿から排泄されるため、実はアスリート・スポーツ選手では不足しやすい栄養素です。
スポーツで引き起こされる貧血をスポーツ貧血と呼びますが、その中の一つに亜鉛欠乏性貧血があります。
症状は風邪を引きやすい、疲れやすい、集中力が下がるなどで、パフォーマンスの低下を招く可能性があるため、より注意が必要です。
亜鉛は全ての細胞に含まれるので、肉・魚介・種実・穀類など多くの食品に含まれています。
特に多いものとしては牡蠣、あわび、たらばがに、するめ、豚レバー、牛肉、卵、チーズ、高野豆腐、納豆、えんどう豆、切干大根、アーモンド、落花生などです。
偏食や極端なダイエットを避け、一汁三菜のような食事を摂ると、亜鉛は十分量摂取できます。
忙しい毎日では加工食品やレトルト食品を利用することもあるでしょうが、そこへ何か一品自炊するなど工夫をすることも大切です。
また、お酒好きな方は適正量を守ることと、おつまみに亜鉛を多く含む肉や魚、大豆製品、ナッツ類を使用したものを選びましょう。
亜鉛を失いやすい抗菌剤や利尿剤を常用している場合は、医師との相談も必要です。
鉄を多く摂ると亜鉛の吸収が阻害され、亜鉛を多く摂ると銅の吸収を阻害するので、他のミネラルとのバランスも必要です。
通常の食生活では過剰の心配はありませんが、摂りすぎると頭痛などの症状が表れることがあります。
最近になって、低亜鉛血症治療薬として、新たに、特効薬であるノベルジン錠が使用できるようになり、亜鉛欠乏症に対して、積極的な治療が試みられるようになってきました。
そして、従来、原因不明と考えられていた症状が亜鉛補充で劇的に良くなることが分かってきました。
細胞の新陳代謝に欠かせない亜鉛は、髪・肌・味覚・免疫機能・生殖機能など体内の至る所に関わっており大切です。
加工食品を減らし、お酒は嗜む程度にし、亜鉛を多く含むタンパク質食品を主菜にした自炊生活を、メインにしていきましょう。