甲状腺疾患はわが国において非常に高頻度にみられる疾患です。
甲状腺疾患では、橋本病、バセドウ病の頻度が高く、橋本病は、女性の約5~15%、男性でも約5%にみられるといわれています。また、バセドウ病も数百人に1人いると考えられています。
しかし、甲状腺の病気は、症状が人によっては、非典型的であり、心臓病、糖尿病、更年期障害、またはうつ病、認知症などの別の病気に間違われやすい病気でもあります。
最近、非常に疲れやすくなった、やたらに動悸がするなどの症状がある場合は、甲状腺の病気である可能性があります。
下記の症状にあてはまるものがあれば、甲状腺のチェックのために、是非、当院を受診してみて下さい。
甲状腺では脳から命令ホルモン(2番目の命令ホルモンを甲状腺刺激ホルモン:TSH)が放出され、甲状腺に作用して甲状腺ホルモン(T3、T4)が分泌されます。
甲状腺からのホルモンが勝手に過剰に分泌される病気は、甲状腺機能亢進症またはバセドウ病として知られています。反対に甲状腺からのホルモンが勝手に不足する病気は甲状腺機能低下症とか橋本病と呼ばれます。
●甲状腺機能亢進症では・・・T3、T4 が過剰に分泌されるため、命令ホルモンTSHが減少
●甲状腺機能低下症では・・・T3、T4 が減少するため、TSHが過剰に分泌される
甲状腺ホルモンは血中ではタンパク質に結合しているものとしないものとに分かれます。実際の甲状腺機能と関係が深いのは後者であり、タンパク質に結合していないという意味から、フリーT3、フリーT4と呼ばれ、ふつうはこちらが測定されます。
●甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では・・・フリーT3、フリーT4が高値、TSHが低値
●甲状腺機能低下症(橋本病)では・・・フリーT3、フリーT4が低値、TSHが高値
それではなぜ甲状腺からホルモンが過剰に分泌されたり、減少するのでしょうか?
この原因として、甲状腺の内部で起こる一種のアレルギー反応(これを自己免疫反応といいます)が考えられています。甲状腺の一部の構造物に対して抗体というタンパク質(自己抗体といいます)ができてきて、この抗体が甲状腺に対して破壊的に作用する結果、バセドウ病や橋本病が起こると考えられています。
自己抗体の検出はバセドウ病や橋本病の診断のために不可欠の検査となっています。
一方、TSHは下垂体前葉と呼ばれる脳の重要な部分から分泌される命令ホルモンの一つです。
バセドウ病ではTSHが低値、橋本病では高値になります。臨床的にはTSH測定はバセドウ病や橋本病の治療効果の目安となる点でも重要です。フリーT3、フリーT4は変動しやすいために治療効果の判定には必ずしも信頼できません。それに比してTSHは理論的にも薬剤効果判定に優れています。すなわち、TSHが正常範囲に落ち着くように薬剤量を調節する必要があります。
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気、すなわち、甲状腺機能亢進症を起こす代表的な病気です。男性に比し女性に多い病気です。
甲状腺ホルモンの過剰により、多くの場合は動悸、息切れ、疲れやすい、体重減少などの特徴的な自覚症状が現れます。
放置しておくと症状が自然に治ることはまれで、大抵はひどくなっていきます。バセドウ病の治療は日本では飲み薬が主体です。他には、アイソトープ療法や、手術という選択肢もあります。
橋本病は、「慢性甲状腺炎」とも呼ばれます。
橋本病は、甲状腺に慢性的に炎症が起きている病気ですが、「自己免疫」の異常が原因で起きる炎症です。
そのため、血液検査で、甲状腺の自己抗体が陽性になります。
橋本病では、甲状腺ホルモンが不足して、甲状腺機能低下症が起こります。
甲状腺ホルモンが低下するわけですから、無気力になったり、寒がりになったり、太りやすくなったりするのですが、体は自然に慣れてしまうためか、なかなかはっきりした症状ではないことがほとんどです。
しかし、女性が橋本病による甲状腺機能低下症に気づかぬまま、妊娠出産に突入してしまうと流産しやすくなるデメリットがあります。
また長期間放置したり、重度な例では心機能の低下を引き起こし心不全になるケースもあります。
橋本病で、甲状腺機能低下が生じたケースでは、甲状腺ホルモン剤を内服で補います。