病院でできる糖尿病の治療の要は、
- 薬を飲む治療
- インスリンやGLP-1受容体作動薬の注射
です。
糖尿病の薬には、いろいろな種類がありますが、今まではそのうちの何個も内服したり、注射でも何種類も時間によって打ち分けなければならなかったりしました。
それが、最近の糖尿病治療の進歩によって、内服薬や注射薬の作用はそのままに、どんどんシンプルになる傾向があるのです。
「この薬はいつ飲むんだっけ?」や「朝には全部で8錠の薬を飲まないと。」など、内服薬の管理に四苦八苦してきた皆さんには、とても嬉しい進歩です。
1.薬や注射薬の回数が、週1回に!
今までの糖尿病治療は、毎日薬を飲んだり、注射を打ったりするのが基本でした。多い人では食事ごとに、内服や注射をしている人もいらっしゃると思います。毎日毎日、内服や注射をするのは大変ですよね。万が一、内服や注射を忘れてしまった時の高血糖発作も怖いものです。
毎日しないといけないはずのものを、徐々に忘れるようになってしまい、「何も症状ないから、大丈夫か。」といって糖尿病治療をやめてしまう人は、実はとても多いんです。糖尿病は無症状でも、隠れて進行し続けるものです。そして、あとになって神経障害や目の病気など、怖い合併症として表れてきます。そうなったら、もう後戻りはできません。
糖尿病になってしまった人は症状のあるなしに関わらず、血糖をよくコントロールし続けることが、合併症の予防にとても大切なのです。
そこで朗報なのが、この週1回でOK!な内服薬と注射薬の登場です。
内服薬も注射薬も、もともと糖尿病薬として使われていた有効成分が、そのまま週1回でOKになったものです。どちらも、高血糖のときだけに血糖を下げてくれる薬なので、週1回飲んだときに一気に血糖が下がる、ということがなく、1週間安定した効果が持続します。
■<内服薬>週1回のDPP-4阻害薬:ザファテック、マリゼブ
DPP-4阻害薬(でぃーぴーぴーふぉーそがいやく)は、身体が高血糖になっているときに働いて、インスリンの分泌を促すインクレチンという、ホルモンの働きを助けてくれる薬です。
高血糖のときだけに働くので、飲んでも低血糖になることがありません。週1回飲むタイプのDPP-4阻害薬には、ザファテック、マリゼブがあります。
一方、1日1回飲むタイプのDPP-4阻害薬には、グラクティブ錠や、ジャヌビア錠、エクア錠、ネシーナ錠などがあります。
■<注射薬>週1回のGLP-1受容体作動薬:ビデュリオン、トルリシティ
GLP-1受容体作動薬(じーえるぴーわんじゅようたいさどうやく)は、食事で血糖が上がりそうになると、インスリンを分泌するように促してくれるホルモン、GLP-1と同じ成分でできています。
体内で自然に出来上がるGLP-1というホルモンは、出来上がってもすぐに分解されて効果が長続きしません。この薬は、簡単には分解されないような構造になっているので、GLP-1の効果を長続きさせて、高血糖時のインスリン分泌を長い時間促してくれるのです。
この薬のうれしいところは、胃の中の食べ物の消化を遅くしたり、脳に「まだ食べる必要はないよ」と働きかけてくれることで、食べ過ぎを防いでくれる効果もあるところです。
週1回GLP-1受容体作動薬には、ビデュリオン皮下注やトルリシティ皮下注などがあります。
1日1回から2回打つタイプのGLP-1受容体作動薬には、ビクトーザ皮下注やバイエッタ皮下注、リキスミア皮下注などがあります。
2.薬や注射薬の数を減らせる!
最近の糖尿病治療の、もう1つの大きな傾向の一つが「複数の薬の効果を、1つの薬に」ということです。
糖尿病患者さんもご高齢の方が増えてきて、問題になってきているのが薬の管理です。内服する薬の数が増えるほど、どの薬をいつ飲むのか、それぞれ何の薬を飲んでいるのか、ご本人にも家族にも、わからなくなってくるものです。
糖尿病の薬だけならまだしも、高血圧やら高脂血症やら、いくつも持病がある人が増えているのに加えて、どの病気でもそれぞれ何種類もの作用の薬を併せ飲むことで、治療効果を高めています。
このままだと増える一方の内服薬や注射薬の数を、「だったら、よくある糖尿病薬の併せ飲みの薬だけでも、1つにまとめちゃえ!」というのが、この薬が開発された動機です。
この流れがこれから先、ほかの内服薬にも広がっていくと、内服薬はますますシンプルに、管理しやすくなっていくでしょう。
■<内服薬>DPP-4阻害薬とメトホルミンの合剤:イニシンク配合錠、エクメット配合錠
DPP-4阻害薬とメトホルミンをまとめて、1つにした薬が、イニシンク配合錠、エクメット配合錠 です。
DPP-4阻害薬は、前述のとおり、高血糖のときに血糖を下げてくれる薬です。
メトホルミンは、「インスリンがたくさん分泌されているのに、あまり効果的に働けない」タイプの糖尿病によく効く薬です。とくに、太っている人(脂肪肝の人)に高い効果が期待できます。
メトホルミンは、肝臓で糖が作られるのを抑えることで、血糖を下げてくれます。また、血液の中にある糖を、筋肉に吸収させてくれるので、ますます血糖を下げることができます。
最近、メトホルミンには「癌を抑える」効果があることもわかってきました。糖尿病患者さんは癌になりやすいので、この効果は2重に嬉しい効果です。
■<注射薬>トレシーバとノボラピッドの配合注射:ライゾデグ配合注
トレシーバは、1回注射するだけで24時間以上の血糖を下げる効果が期待できる注射薬です。注射を打った直後から、大きなピークを作ることなく長時間効く、というのが特徴です。
それに対して、ノボラピッドは打った直後、10分から20分に効果のピークが現れるので、食事の直前に打つ注射薬です。効果は3~5時間で消えてしまうので、食事ごとに打つ注射薬です。
この2つを組み合わせたライゾデグ配合注は1日1回、1日のうちで一番たくさん食べる食事の直前に打つことで、1日の血糖を平均的にコントロールしてくれます。
ライゾデグ配合注の大きなメリットは、注射を打つタイミングを患者さんが自分で決められるので、注射療法を正しく続けやすい、ということです。(1日1回でコントロールがつかないときは、朝夕に1日2回の注射になります。)
3.そのほか、メリットいろいろ
以上の2つが、最新の糖尿病治療薬の大きな傾向でしたが、そのほかの糖尿病薬にもいろいろな改善がされています。
■安心で格安!・・・バイオシミラー医薬品
バイオシミラーは、最近では一般的になった「ジェネリック医薬品」と理屈は似ています。
ただし、ジェネリック医薬品が「全く同じ有効成分」で作られているのに対して、バイオシミラーはバイオテクノロジーで作られた先発品と同じ効果をもつ「別のもの」です。
なんだか難しいですが、ジェネリックよりももっと複雑な技術を使って作られた、もともとある医薬品と、同じ効果と安全性と認められたものがバイオシミラーです。
もともとある医薬品の7割ぐらいの値段で売られるので、日々患者さんにかかってくる薬代が安く済むようになります。
糖尿病薬のバイオシミラーには、ランタス(自己注射役)のバイオシミラー「リリー」があります。
■低血糖とサヨナラ!高濃度の基礎インスリン製剤
2015年に、従来のランタスの3倍濃度であるランタスXRが登場しました。
インスリン製剤を高濃度にする一番のメリットは、皮下注後の吸収がとてもゆっくりになるので、いままでの注射に比べて低血糖を起こしずらい、ということです。
また、ランタスは体重が増えやすくなるデメリットがありましたが、それにくらべて3倍濃度のランタスXRではあまり体重に影響がないとも言われています。