1.NASHにはどのような症状がありますか?
NASHと診断される多くの患者さんにはほとんど自覚症状がありません。しかし、NASHが進行し、肝硬変症や肝がんを合併した患者さんでは倦怠感、黄疸、腹部膨満感等の症状が出現する事があります。
2.NASHの原因は何でしょうか?
NASHの発症および肝硬変症や肝がんへの進展には酸化ストレス、インスリン抵抗性(高インスリン血症)、鉄などが関与していると考えられています。
インスリン抵抗性が高まると、肝臓の細胞は攻撃されます。また、その後に脂質過酸化による酸化的ストレスが持続し、やはり肝臓の細胞を破壊します。これをツーヒットセオリーと呼んでいます。
NASHの50%が進行性で、約10年で20〜30%が肝硬変、肝がんに進行します。
Two hit theory
3.NASHはどのように察知するのでしょうか?
NASHを察知するのは血液検査が有用です。肝機能AST/ALT比が0.8以上、血小板の低下、肝線維化マーカーの高値が指標といわれています。
また、血清フェリチンという血液中の鉄分に関係する成分が異常に高い値を示してくることが多いようです。
4.NASHと飲酒の関係は?
エタノール換算で1日20g以下、すなわち、日本酒1合、ビール大瓶1本、ウイスキーダブル1杯、ワイングラス1.5杯以下の飲酒歴ではアルコール性肝障害を起こすことは少ないと考えられています。従って、1日のアルコールの飲酒量がエタノール換算にして20g以下で脂肪肝の場合はNAFLDやNASHの可能性が高いと言えます。
5.NASHは、なぜ注目されているのですか?
従来、脂肪肝は良性の疾患と考えられ、放置されて来ました。ところが、最近の研究で脂肪肝も肝硬変や肝がんに進行するタイプがあることが分かって来ました。
また、お酒をあまり飲まず、ウイルスや自己免疫など肝障害の原因がないにも関わらず、肝硬変症や肝がんと診断される患者さんが増えています。そのような患者さんの中にNASHがいることが分かってきました。
2007年に日本糖尿病学会から衝撃的な報告がありました。すなわち、糖尿病の患者の死因のトップは肝がん(8.6%)で、肝硬変死(4.7%)と合わせると実に糖尿病患者の13.3%が肝疾患関連死であるという報告でした。この報告以来、NASHが注目されるようになりました。
また、メタボリックシンドロームが多い米国では米国人口の約3%(およそ850万人)がNASHに罹患していると考えられ、日本でも急増しています。
さらに、疫学調査では同じ肥満度(BMI)で比較すると、非日本人(ヒスパニック、白人、黒人)に比べ、日本人はインスリン抵抗性や脂肪沈着が有意に高く、日本人が肥満による脂肪肝を来しやすい事も明らかになっています。
6.どのような人がNASHにかかるのですか?
NASH は肥満等のメタボ体質を基盤に発症する肝疾患であるため、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症等の合併疾患が多いほど発症リスクが高くなります。ぞのため、肥満症、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の患者さんは特に、注意が必要です。
単純性脂肪肝からNASHへの進展には酸化ストレス、インスリン抵抗性(高インスリン血症)、鉄などが関与していると考えられています。
NASHは、早食いや大食いの人、運動しない人、野菜を食べない人、肉食で特に赤みの肉が好きな人、生活が不規則な人、などがNASHにかかりやすいと言えます。
7.健康診断などで見つかるのでしょうか?
NASHではアルコール性脂肪肝とは違いγGTPの異常が少なく、ALT/ASTの上昇も軽度です。
また、超音波検査やCT検査などの画像診断では、30%以上の肝細胞に脂肪沈着を認めた場合に脂肪肝の診断が可能です。脂肪肝は、5~10%以上の肝細胞に脂肪滴を有するものと言うのが脂肪肝の国際的な定義であることから、検診で見落とされている可能性も高いと言えます。
当院では、先進的な検査として、エラストグラフィ検査を実施しています。従来は、入院して肝臓の細胞を取る痛い肝生検検査が必要でした。しかし、痛い検査をしなくてもエラストグラフィを用いることで、NASHになっているかどうかが比較的容易に把握できるようになり、診断・治療に役立てることが可能になりました。
エラストグラフィ検査の詳細はこちらをクリック
8.NASHでは、どのような治療を行いますか?
NASHと診断された場合、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症等の合併症があれば、まず、これらの治療を行います。
薬物療法としては、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、ビタミンE(商品名:ユベラN)やビタミンC、あるいはポリエンホスファジルコリン(商品名:EPL)等を投与します。また、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)、メトホルミンという糖尿病治療薬や、エゼチミブ(商品名:ゼチーア)、HMG-CoA還元酵素阻害薬(商品名:リピトールなど)という脂質異常症治療薬や、ARB(商品英ニューロタンなど)という降圧剤が奏効する症例もあります。
9.NASHを改善させるための食事・運動療法とは?
NASH は肥満等のメタボ体質を基盤に発症する肝疾患なので、減量のための運動療法や食事療法が基本です。
運動としては、有酸素運動やレジスタンス運動が有効です。
また、NASHの発症や進行には、1)酸化ストレス、2)インスリン抵抗性(高インスリン血症)、3)鉄が関与しています。そのため、NASHを予防し、進行を抑えるには体の“酸化、糖化、鉄化”を防ぐ事が重要です。
まず、「酸化」を防ぐには「ファイトケミカル(phytochemical)」を上手に摂取する事が大切です。ファイトケミカルとは植物が紫外線や害虫による危害から自らの身を守る為に作る機能性成分のことです。ファイトケミカルのファイト(phyto)は、【戦う】と言う意味ではなく、ギリシャ語で【植物】と言う意味で、ファイトケミカルは植物由来の成分です。例えば、トマトに含まれるリコピン、ワインに含まれるポリフェノール、ショウガに含まれるジンゲロール、お茶に含まれるカテキンなどはいずれもファイトケミカルです。ファイトケミカルはトマトの赤い「色」、ワインの「香り」、ショウガの「辛味」、お茶の「苦味」など、私たちの五感が感じとっている野菜や果物の成分でもあります。そして、ファイトケミカルには活性酸素を消去する「抗酸化作用」、「免疫力を高める作用」、そして、がん細胞を殺す抗がん作用があります。
2番目に「糖化」を防ぐ食事指導。糖質制限など炭水化物を制限する食事療法もありますが、ご飯好きには案外厳しいと言えます。その場合は食べる順番で血糖を上げすぎない工夫を薦めています。例えば、おかずと汁物を先に食べ、一息ついてからご飯を食べる。また、同じカロリーでも食後の血糖値の上昇の度合いが低い食品を食べるように指導しています。食後の血糖値の上昇の度合いを食品別に数値化したものをGI値(グリコセミック・インデックス)と呼びます。この数値の高い食品(白米、うどん、フランスパン)は血糖値が上がりやすく、インスリンの分泌量を増大させてしまい、脂肪になりやすい食品と言えます。逆に、GI値の低い食品(玄米、そば、春雨、パスタ)は脂肪になりにくいため、これらの食品を摂るように指導しています。
3番目の「鉄化」を防ぐのは鉄による酸化促進作用を抑えるためです。一般にはあまり神経質になる必要はありませんが、すでに肝炎や脂肪肝を指摘されているなら、レバーや赤身肉(魚類の血合いも)を避けた方がいいと言えます。玄米は鉄の吸収を防ぐフィチン酸を含むので、玄米食は抗糖化、抗鉄化の両面からお勧めです。また、鉄は汗から排泄されます。定期的に運動し、汗をかくことで鉄も減らすこと出来ます。
NASHの治療に関する詳細は、こちらをクリック