当院では潰瘍性大腸炎とクローン病の検査と専門的治療(薬物治療・栄養指導)を行っております。お気軽にご相談ください。
また、炎症性疾患と呼ばれる潰瘍性大腸炎とクローン病は、「難病」として厚生労働省の特定疾患に指定されており、医療費助成が受けられます。
当院は難病指定医療機関に登録されており、医療費助成のための難病特定疾患診断書を作成しています。
下記のタイトルをクリックするとジャンプします。
潰瘍性大腸炎の原因は、いまだ明らかになっていません。腸内細菌の関与や食生活の変化の関与など様々な要因により、体内の免疫機構のバランスが崩れ、自己免疫反応の異常がおこり炎症症状が引き起こされると考えられています。
遺伝的な要素がないわけではありませんが、遺伝する可能性は極めて少ないので心配はありません。
すべての方に発生率が高いというわけではなく、全結腸型で発病後10年以上経過している方が癌ができやすいと報告されています。
大腸炎の経過観察とともに年に一度の大腸カメラ検査をおすすめします。
便がだんだんゆるくなることが最初の症状のようです。
そして、便は出血を伴い、痙攣性の腹痛と頻回の排便をもよおします。
下痢は徐々にあるいは全く突然に始まることもあります。症状が重くなると、発熱、体重減少、貧血などの全身への症状が起こります。
また、腸管以外の合併症として皮膚病変、眼病変や関節の痛み、子供では成長障害が起こることもあります。
(a)臨床症状 | 持続性または反復性の粘血・血便あるいはその既往 |
---|---|
(b) 1.内視鏡検査 2.注腸X線検査 |
(1) i)粘膜はびまん性に侵され、血管透見像は消失、粗造または細顆粒状 ii)多発性のびらん、潰瘍あるいは偽ポリポーシス (2) i)粗造または細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化 ii)多発性のびらん、潰瘍 iii)偽ポリポーシス、その他、ハウストラの消失(鉛管像)や腸管の狭小・短縮 |
(c)生検組織的検査 | 活動期では粘膜全層にびまん性炎症性細胞浸潤、陰窩膿瘍、高度な杯細胞減少が認められる。 寛解期では腺の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮が残存する。 |
大腸における病変の状態を的確に把握し、症状が似ているほかの大腸疾患と区別して診断を確定するためには大腸内視鏡検査が必要です。
なお、大腸内視鏡検査は、症状がない寛解期においても、治療内容の変更の判断や大腸の炎症・潰瘍部位の癌化(全大腸炎型では10年以上経過すると癌化の危険性がある)の確認などのために必要な検査です。
現在、潰瘍性大腸炎を完治に導く内科的治療はありませんが、腸の炎症を抑える有効な薬物治療は存在します。
治療の目的は大腸粘膜の異常な炎症を抑え症状をコントロールすることです。
薬の使用方法は経口・注腸・坐薬・点滴などがあります。病変部の広がり方や重症度、炎症が活動期か寛解期かによって、治療薬を使い分けたり組み合わせたりします。
基本は5-ASA経口剤メサラジン(ペンタサ)・サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)を経口投与し、必要であれば局所に使う薬としてペンタサ注腸・ステロイドの注腸なども併用します。潰瘍性大腸炎の場合、直腸とS状結腸の炎症が多いので局所的に抑える注腸は有用な療法です。
症状によっては、ペンタサやサラゾピリンとともに副腎皮質ステロイド(プレドニン)を経口投与したり点滴をする場合もあります。
他には、免疫抑制薬メトトレキサート(メソトレキサート)の投与や白血球除去療法(血液透析のようなもの)などがあります。
5-ASA製薬には従来からのサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)と、その副作用を軽減するために開発された改良新薬の(ペンタサやアサコール)があります。
経口や直腸から投与され、持続する炎症を抑えます。炎症を抑えることで、下痢、下血、腹痛などの症状は著しく減少します。
5-ASA製薬は軽症から中等症の潰瘍性大腸炎に有効で、再燃予防にも効果があります。
製品 | |
---|---|
作用 | サラゾスルファピリジン(SASP)は、約1/3が小腸で吸収され、大腸で腸内細菌によってSPと5-ASAに分解されて腸管粘膜に作用する。 |
副作用 | 食欲不振、吐き気、嘔吐、口内炎、胃痛、下痢、発疹、かゆみ、光線過敏症、頭痛、めまい、尿路結石 |
注意点 | 血液障害・肝障害・腎障害・気管支喘息などを持つ患者や、乳児・幼児、妊婦・授乳婦への投与は注意が必要。 |
製品 | |
---|---|
作用 | メサラジン(5-ASA)はサラゾスルファピリジン(SASP=SP+5-ASA)からSPを取り除き、有効成分5-ASAのみを取り出した治療薬。主に緩解導入療法に用いられる。以前は緩解維持療法にもよく用いられていたが最近では緩解維持目的には使用されないことが多い。 |
副作用 | 腹痛、下痢、吐き気、発疹、かゆみ |
注意点 | 服用してはいけない場合……重い腎機能障害・肝機能障害/本剤の成分に対するアレルギーの前歴/サリチル酸エステル類・サリチル酸塩類に対するアレルギーの前歴 慎重に服用すべき場合……腎機能・肝機能の低下している人/サラゾスルファピリジンに対するアレルギー |
代表的な薬剤としてプレドニゾロン(プレドニン)があります。経口や直腸からあるいは経静脈的に投与されます。
この薬剤は中等症から重症の患者さんに用いられ、強力に炎症を抑えますが、再燃を予防する効果は認められていません。
製品 | |
---|---|
作用 | 合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)で、抗炎症作用、抗アレルギー作用、免疫抑制作用のほか、広範囲にわたる代謝作用があります。通常、内科・小児科、外科など各科のさまざまな病気の治療に用いられます。ただし、病気の原因そのものを治す薬ではありません。 |
副作用 | 食欲増進、不眠、吐き気、下痢、生理不順、むくみ、ムーンフェイス等です。 |
注意点 | 錠剤、散剤、シロップ剤、坐剤(ざざい)〔坐剤の使用法〕など、いろいろな剤型があり、病気や症状に応じて用いられます。服用は食後が原則ですが、1日の回数、1回の使用量は、医師が患者の症状や病状をみながら、重大な副作用をおこさないように適切な判断をくだすので、指示を正しく守ってください。 |
これらの薬剤には、アザチオプリン(アザニン、イムラン)や6-メルカプトプリン(ロイケリン)、最近ではシクロスポリン(サンディミュン)やタクロリムス(プログラフ)があります。
これらの薬剤はステロイド薬の無効の患者さんや、ステロイド薬が中止できない患者さんの治療に用いられます。
製品 | |
---|---|
作用 | 免疫に関与するT細胞に作用し、炎症に関わるサイトカインの産生をおさえることにより炎症を抑え、重症筋無力症の筋力低下の症状や、関節リウマチの関節の腫れ・痛み・こわばり、ループス腎炎の尿蛋白などの腎症状、難治性の潰瘍性大腸炎の各種症状を改善します。 |
副作用 | 主な副作用として、腹痛、下痢、鼻咽頭炎、血圧上昇、振戦(手足の震え)、ほてり、感覚異常、吐き気などが報告されています。 |
注意点 | 感染しやすくなりますので、手洗いやうがいを行い、規則正しい生活を心がけてください。予防接種は医師の許可なしに受けないでください。グレープフルーツ(ジュース)は、この薬の作用を強め、腎障害などの副作用があらわれることがありますので、これらを一緒に飲食することは避けてください。 |
インフリキシマブ(レミケード)は、クローン病や関節リウマチの患者さんでも使用されている注射薬ですが、潰瘍性大腸炎でも効果が期待できる薬剤です。効果がある場合、多くの患者さんで、8週おきに投与が継続され、再燃予防効果が期待されます。
製品 | |
---|---|
作用 | 外瘻を有するクローン病、中等度から重度の活動期にあるクローン病の維持療法、治療、中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療で使用することができます。レミケードの特徴は速効性にもあり、投与開始6週後には非常に高い割合で強い症状改善効果(痛みや腫れを抑える効果)が確認できます。 |
副作用 | 点滴中または点滴終了後に発熱、頭痛、発疹などの症状があらわれることがあります。 |
注意点 | その他に重要な副作用として感染症(肺炎、結核、敗血症、日和見感染など)、遅発過敏症、脱髄疾患、抗dsDNA抗体陽性化をともなうループス様症候群、肝機能障害、白血球減少、好中球減少などがあげられています。 |
薬物療法ではありませんが、血液中から異常に活性化した白血球を取り除く治療法で、LCAP(白血球除去療法:セルソーバ)、GCAP(顆粒球除去療法:アダカラム)があります。副腎皮質ステロイド薬で効果が得られない患者さんの活動期の治療に用いられます。
潰瘍性大腸炎の多くは薬物治療でコントロールできますが、下記のようなケースでは手術の対象となることがあります。
手術は大腸の全摘が基本となります。
以前は人工肛門を設置する手術が行われていましたが、現在では肛門を温存する手術が主流です。
この手術は大腸を取り除いた後、小腸で便を貯める袋を作って肛門につなぐ方法です。この手術方法で患者さんのQOLは飛躍的に向上されています。
クローン病が発症する原因として、遺伝的な要因が関与するという説、結核菌類似の細菌や麻疹ウイルスによる感染で発症するという説、食事の中の何らかの成分が腸管粘膜に異常な反応をひきおこしているという説、腸管の微小な血管の血流障害による説などがあげられていますが、いずれもはっきりと証明されたものはありません。
最近の研究ではなんらかの遺伝子の異常を背景にもち、異物を処理する細胞やある種のリンパ球などの免疫を担当する細胞の異常反応が明らかになってきており、外来の抗原(食事の成分、異物、病原体など)の侵入とそれに対する免疫系の反応異常が想定されています。
クローン病は人種や地域によって発症する頻度が異なり、また家系内発症もみとめられることから、遺伝的因子の関与が考えられていますが、クローン病を引き起こす原因となる特定の遺伝子はみつかっていません。
現在のところ、単一の遺伝子異常だけで発症するのではなく、いくつかの遺伝子異常と環境因子などが複雑に絡み合って発症していると考えられています。
腸に炎症が起き、潰瘍ができるため何となく腹部全体が痛みます。
また、腸の狭窄があると、腸の内容物が通過するときに刺しこむような激しい痛みが起こります。
病気の起こり始めでは軽い痛みが一時的に起こる程度ですが、消化管以外の合併症として胆石や尿路結石による腹痛が生じることもあります。
小腸にも潰瘍ができるため、消化・吸収が悪くなり下痢を起こし、ときには血液の混ざった粘血便もみられます。夜間にも下痢を起こすなら、悪化している可能性があるので注意が必要です。
炎症が起こっているので悪化に伴って微熱が続きますが、膿瘍などの腸管合併症があると高熱があらわれます。
消化・吸収が悪くなっているために栄養障害が起こり、体重が減少します。栄養障害は、栄養素の消化・吸収の低下や下痢、出血、蛋白漏出などによって栄養素が失われることと、発熱、代謝亢進、潰瘍などの組織修復に消費されること、食事をしないことなどによって起こります。
痔や痔瘻を合併する頻度が高いといわれています。座っていることもできないほど痛むこともあります。
クローン病の診断には血液・便検査、超音波検査、消化管造影、内視鏡検査などが行われます。
慢性炎症の結果、血沈の亢進、CRP(炎症反応)の上昇、貧血などがみられます。栄養状態が悪化すると血清タンパク、アルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼ値などが低下します。便検査では便潜血の有無を知るために、また便培養は感染性腸炎との鑑別のために必要となります。
超音波検査のみでクローン病を診断することは困難ですが、クローン病では特徴的な超音波所見が得られます。病変部の腸管は全層性かつ非連続性に低エコー性壁肥厚として描出されます。活動期では腸管の層構造が不明瞭になり、浮腫性の肥厚を認めます。
上部消化管造影と注腸造影を行い、小腸および大腸病変の有無を検索します。病変は区域性、非連続性に認められ、小腸の病変は回腸末端から回腸下部に多く認められます。縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、内瘻・外瘻、非対称性狭窄、裂溝のある深い棘状バリウム突出像、多発性アフタ様潰瘍、炎症性ポリープの密生などが特徴的な所見です。
内視鏡検査では正常粘膜に囲まれた非出血性の潰瘍を認め、周囲粘膜には炎症を欠き、非連続性の多発潰瘍となります。腸管の縦方向に配列して大きいものは縦走潰瘍となり、敷石像をともなうなどの特徴があります。
敷石像の頂部や潰瘍辺縁から生検を施行すると、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫、非連続性病変、不均衡炎症(粘膜より粘膜下層の炎症が強い)などの所見が確認されます。
日本消化器病学会クローン病診療ガイドラインが用いられます。
表 クローン病の診断基準
1.主要所見 | A.縦走潰瘍 B.敷石像 C.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫 |
---|---|
2.副所見 | a.縦列する不整形潰瘍またはアフタ b.上部消化管と下部消化管の両者に認められる不整形潰瘍またはアフタ |
3.確診例 | 1)AまたはBを有し虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎が除外されるもの 2)Cとaまたはbを有するもの |
4.疑診例 | 1)aまたはbを有するもの 2)Cのみを有するもの 3)AまたはBを有するが虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎を除外できないもの |
クローン病はそもそも原因が不明であるため、現在のところ根本的な治療法はありません。治療の基本となるのは腸管の炎症を抑えること、症状の軽減を図ること、栄養状態を改善することです。
治療は、薬物療法と栄養療法を組み合わせたコンビネーション療法が中心となります。
手術療法もありますが、潰瘍性大腸炎の場合のように完全に治すことを目的とした手術ではなく、一時的に症状を軽減するためのものになります。
クローン病では腸管の安静に加えて、腸管内からの免疫反応を引き起こさせる物質を取り除くことが重要です。
これを目的とした栄養療法には「完全中心静脈栄養法」と「経腸栄養法」に分かれます。
「完全中心静脈栄養法」は、胸などの静脈に挿入したカテーテルから栄養を注入する方法です。腸管が著しく狭まっている場合や、高範囲にわたって発症が見られる場合など、経腸栄養法が不可能な場合に行います。
一方の経腸栄養法は、鼻腔から十二指腸まで通したチューブから栄養を注入する方法です。経腸栄養法では、脂肪をほとんど含まない成分栄養剤、少量のタンパク質と脂肪含量がやや多い消化態栄養剤、カゼインや大豆タンパクを含む半消化態栄養剤が使われます。
クローン病の薬物療法は、症状によって使い分けられます。
製品 | |
---|---|
商品名 | サラゾピリン |
大腸にのみクローン病が発生する場合に用います。
製品 | |
---|---|
商品名 | ペンタサ |
メサラジンは小腸大腸の炎症を抑える薬でクローン病の基準薬と考えられます。
製品 | |
---|---|
商品名 | プレドニン |
強力な抗炎症作用を持っており、急性期の治療に用いられます。
製品 | |
---|---|
商品名 | 【アザチオプリン】イムラン・【6-メルカプトプリン】ロイケリン |
副腎皮質ステロイドによる副作用がみられたときや、減量や離脱を必要とする場合、その他の薬が無効な場合、ろう孔を形成した患者さんなどに使用します。
製品 | |
---|---|
商品名 | フラジール |
肛門部にクローン病が発生している患者さんに有用です。
製品 | |
---|---|
商品名 | レミケード |
クローン病では症状が悪化している時に腫瘍壊死因子「TNF-α」が増加しています。このTNF-αの作用を抑える薬として、抗TNF-α抗体が開発されました。この薬を投与すると、大半の人の症状が速やかに改善します。ただし効果は約8週間しか持続しない為、8週間毎の投与が必要となります。
大量出血がある場合や、中毒性巨大結腸症、穿孔、腸閉塞、癌の合併が起こっているときは緊急な手術が必要になります。
また、内科的治療で好転しない場合や、膿瘍、内ろう、外ろう、難治性狭窄、肛門部周辺病変が起こっている場合で、患者さんの日常生活に支障がある場合は手術することがあります。