当院では、外用液であるソフピロニウム臭化物ゲル(エクロックゲル®)、グリコピロニウムトシル塩酸水和物ワイプ(ラピフォートワイプ®)と、内服薬であるプロパンテリン臭化物(プロバンサイン®)のみ保険診療で処方しています。
1.腋窩多汗症外用治療薬
①『ソフピロニウム臭化物ゲル(エクロック®)とは?
②『グリコピロニウムトシル塩酸水和物ワイプ(ラピフォートワイプ®)とは?
2.全身の多汗症内服治療薬
『プロパンテリン臭化物(プロバンサイン®)とは?
多汗症には原因が明らかでないものもありますが、一般的な予防方法として、ストレスにより交感神経が優位にならないようにと生活習慣の改善が推奨されています。食生活面では、刺激物(唐辛子などの辛い食材、かんきつ類などの酸っぱい食材、コーヒーなどカフェインを含むものなど)をできるだけ避けて、栄養のバランスがとれた食事を心がけること。また、タバコやアルコールを控えて、十分な睡眠をとることなどがあります。ストレス解消としては適度な運動も効果的でしょう。
自分にとって最適なリラックス方法をいくつか見つけて、日々の緊張状態から心身を解放することができる時間を大切にするといいですね。
汗が多くて悩んでいても本当に自分が多汗症なのか不安な方もいらっしゃると思います。
『原発性腋窩多汗症』とはどんなものなのでしょうか?
簡単に言うと、『明らかな原因となる病気もないのに、ワキの汗が多い』という症状が当てはまる場合、原発性腋窩多汗症と言えます。
そこで疑問に思うのは、どの程度の量なら多いと言えるか、、、というところですよね。
『わき汗が多いことで日常生活に支障をきたす』ということが最も重要な判断の基準になるでしょう。
同じ量の汗でも生活スタイルやその人の考え方で『支障をきたしている』かどうかは人それぞれですので、患者様ご自身がどう感じているか、を最も重要視します!!
多汗症は悩んでいる方は多いのに受診率は非常に低く10%未満ともいわれており、皆さんが思っている以上に本当は受診のハードルを下げてもいい疾患です。ぜひ気軽にご相談ください。
原因不明の過剰な局所性発汗が6ヵ月以上持続していることに加え、下記6項目中2項目以上を満たす場合に原発性局所多汗症と診断します。
原因不明の過剰な局所性発汗が6ヵ月以上持続していることに加え、
以下の6項目中2項目以上を満たす
腋窩多汗症の重症度を判定する検査として、発汗量の測定があります。
これにはヨード紙やヨード液を用いる定性的測定法と、重量計測法や換気カプセル法などの定量的測定法があり、それぞれ治療効果の判定に用いることも可能です。
重症度の判定では、患者の自覚症状から簡便に評価を行える“Hyperhidrosis Disease Severity Scale”も使用されます。
Hyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS)
3および4は重症多汗症と判定される。
新しい腋窩多汗症外用治療薬『ソフピロニウム臭化物ゲル(エクロック®)』とは?
ソフピロニウム臭化物ゲル(エクロックゲル®)は日本初の保険適応の原発性腋窩多汗症用外用薬です!
(原因となる病気がないわきの汗を治療する塗り薬、ということです)
汗腺のアセチルコリンの働きを局所でブロックすることで汗を抑えます。
多汗症=エクリン汗腺の治療といえば
・わきボトックス
・レーザー
・塩化アルミニウム
などがあげられますが、
わきボトックスは比較的高価で、針を刺す痛みがしんどい。
レーザーは効果が不安定、高価。
塩化アルミニウムは結構かぶれる
などのデメリットがあり、一部のわきボトックスを除き今までは保険適応外でした。
そこの問題を一気にクリアしたのが、今回発売となったソフピロニウム臭化物ゲル(エクロックゲル®)です。
・塗るだけだから痛くない
・保険適応だから安価
ちなみに大きな副作用はないですが、塗り薬なのでかぶれの可能性がありますね。
添付文書上では1%以上の副作用に
皮膚炎(6.4%)、紅斑(5.7%)、そう痒感、湿疹
があげられています。
またアセチルコリンを抑制するため口の渇きを覚える人もいる可能性があります。溶媒にアルコールを使用しているため、傷などあるとしみそうな印象です。
アルコールが苦手な方も要注意です。
試験では単剤で80%の方で汗が抑えられ、60%の方は日常生活に支障が無くなる程度まで改善したそうです。
効果が出るまでの期間も2週間と比較的早くに実感できます。
1日1回 両脇にゲルを塗布します
1本で2週間分の量となります
妊婦・授乳婦・12歳未満の小児は使用は慎重な判断となります。
その他、閉塞隅角緑内障、前立腺肥大による排尿障害がある方、成分に過敏症のある方は使用できません。
新しい腋窩多汗症外用治療薬『グリコピロニウムトシル塩酸水和物ワイプ(ラピフォートワイプ®)』とは?
グリコピロニウムトシル塩酸水和物ワイプ(ラピフォートワイプ®)は日本初の保険適応の原発性腋窩多汗症用のワイプ(ふき取り)型の塗り薬です!
1回使いきりのワイプ製剤で、簡便かつ衛生的に使用することができます。
9歳以上の原発性腋窩多汗症の患者さんに使用いただけます。
1日1回、夜就寝前など、一定の時間帯に、以下の手順で両わきに1回使い切りで塗布します。
脇をタオルで拭く等、清潔で乾いた状態にしてください。使用する直前にラピフォートワイプを開封します。広げたワイプで脇を一拭きして、お薬を塗ります。同じワイプでもう片方の脇も同様にお薬を塗ります。他の方(特にお子様)が誤って触れることがないように注意し、袋に入れてから捨てるなど適切に廃棄してください。使用後は直ちに手を洗い、手についたお薬をきれいに洗い流してください。
主な副作用(1%以上)として、羞明、散瞳、霧視、ドライアイ、排尿困難、頻尿、口渇、接触皮膚炎、湿疹が報告されています。
ラピフォートワイプ2.5%の薬価は1包あたり262円です。新医薬品のため2023年4月末までは、1回14日分が限度となりますので1回処方分の薬価は14包=3,668円(3割負担:1,100円)となります。※薬剤費のみの計算です。
多汗症内服治療薬『プロパンテリン臭化物(プロバンサイン®)』とは?
プロパンテリン臭化物(プロバンサイン®)とは、神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを妨げる薬で、抗コリン薬とも言われています。アセチルコリンの働きが亢進する類の病気に対して有効で、多汗症などに対して使用されます。
多汗症に対する内服薬には、①プロパンテリン臭化物(プロバンサイン®)、②クロニジン塩酸塩錠(カタプレス®)、③トフィソパム(グランダキシン®)などがあります。しかしいずれもその効果は完全に証明されておらず、効き具合も患者さまごとにばらつきがあるといわれています。ただ、プロパンテリン臭化物に関しては他の薬に比べて有効性を示す症例報告の数が多く副作用も少ないため、多汗症に対する内服薬として唯一保険適用となっています。また多汗症の治療に用いる他の抗コリン薬として、エクロックゲルがあります。エクロックゲルは2020年9月に承認された薬で効果が期待されていますが、こちらは腋窩の多汗症に対してのみ保険適用となっています。
多汗症の治療には「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2015 年改訂版」によってアルゴリズム(治療方針の選び方)が示されています。このガイドラインによると、プロバンサインは全身のどの部位の多汗症に対しても用いることができます。しかし治療効果にばらつきがあることなどを考慮されてか、あくまでも他の治療の補助的な立ち位置とされています。
具体的な内服方法としては、成人の場合1回1錠(プロパンテリン臭化物として15mg)を1日3〜4回に分けて経口で投与し、患者さまの年齢や症状によって適宜増減します。多汗症で受診していただく患者さまの中にはお子さまもいらっしゃいますが、プロバンサインの添付文書には「小児(15歳未満)への安全性は確認されていない」と明記されているためお子さまに対して使用されることは多くありません。なお妊娠中の患者さまに対しても安全性が確立していませんが、授乳婦に対する注意書きはありませんので使用することが可能です。
抗コリン作用によって病状が増悪する病気として閉塞隅角緑内障・排尿障害のある前立腺肥大・重篤な心疾患・麻痺性イレウスをお持ちの患者さまは、プロバンサインの投与の影響で重篤な副作用が起きる可能性があります。そのためプロバンサインを投与することができません。
排尿障害のない前立腺肥大・甲状腺機能亢進症・うっ血性心不全・不整脈・潰瘍性大腸炎・開放隅角緑内障などの病気をお持ちの場合にも副作用のリスクがあります。またプロ・バンサインは発汗を抑える効果があるため、高温の環境でも汗をかきにくくなる可能性があります。体温調節機能が働かずに体温が異常に上昇してしまう可能性があるため、高温の環境で長時間過ごされる方には不向きです。
持病のない方が使用する分には重篤な副作用が起きることはほとんどありません。軽い副作用として目のかすみ・口の渇き・頭痛・眠気などを感じることがあります。内服治療中は自動車の運転など危険を伴うので機械の操作をしないようご注意ください。
飲み合わせ
プロバンサインは三環系抗うつ剤のイミプラミン・アミトリプチリン、フェノチアジン系の抗精神病薬であるプロクロルペラジン・クロルプロマジン・ジエチルペラジン等、パーキンソン病治療薬のモノアミン酸化酵素阻害剤などと併用すると効果が増強される恐れがあります。また強心薬であるジゴキシンと併用した場合はジゴキシンの作用が増強される可能性があります。これらの薬を一緒に内服する必要がある場合には、薬の効きすぎに注意が必要です。
プロバンサイン(15mg)の薬価は9.2円/錠であり、1日4回内服した場合は30日間で1104円です。
多汗症に対しては保険がききますので、3割負担の患者さまの場合は30日間で約331円の薬剤費となります。