従来の糖尿病治療薬とは全く違った新しい作用機序をもつ(イメグリミン(ツイミーグⓇ)が日本で承認となりました。
現在、経口糖尿病治療薬としては、8種類の薬剤がありますが、ツイミーグは、ミトコンドア機能を改善させることで糖尿病への治療効果を発揮すると考えられています。加えて、イメグリミンは、インスリン抵抗性の改善とインスリン分泌促進という2つの血糖降下作用を合わせもっています。
ミトコンドリアは、細胞の活動に必要なエネルギーの大部分を産生する、いわば発電所であり、ミトコンドリア機能を改善することでインスリンを分泌する機能が改善することも報告されています。
ツイミーグは、グルコース濃度依存的なインスイリン分泌を促す膵作用と、筋肉および肝臓での糖代謝を改善する膵外作用という2つの作用をもつ薬剤なのです。
NAD+は、生体の酸化還元反応において中心的役割を果たす補酵素です。糖尿病ではインスリン分泌を担っている膵臓にあるβ細胞のNAD+量の減少が、インスリン分泌の低下につながると考えられています。
ツイミーグは、NAD+を増加させるなどの働きにより、膵β細胞において細胞内のCa2+が増加します。
その結果、ツイミーグはブドウ糖(グルコース)に対して、濃度依存的にインスリン分泌促進作用を示します。
つまり、血糖値が低いときにはインスリン分泌を促進せず、血糖値が高いほどインスリン分泌を促進する、低血糖のリスクが極めて少ない薬剤といえます。
ミトコンドリア機能を改善させることにより、細胞に障害をきたす活性酸素の産生を抑え、膵β細胞を守る働きが期待されています。
過去の研究ではβ細胞が障害され脱落することが知られている特殊なラットにツイミーグを経口投与した結果、単位膵臓重量あたりのβ細胞量が増加することが報告されています。
2型糖尿病は膵β細胞機能の低下とβ細胞の量が徐々に減っていく進行性の病気であり、これこそが糖尿病を基本的には完治させることができない大きな理由のひとつなのです。
ツイミーグは、低下してしまった膵β細胞を回復させる効果が期待される点で画期的な薬剤なのです。
ツイミーグは、インスリンシグナル(インスリンの働きをよくする信号)を改善させ、肝臓での糖新生を抑制します。
糖新生は、脂質やアミノ酸など糖質以外の物質からグルコースを合成するはたらきで、これを抑えることで血糖コントロールを改善させます。
インスリンは、ブドウ糖を細胞内に取り込ませることで血糖値を低下させます。骨格筋は、血液中の糖を取り込む最大の臓器であり、食後に上昇する血糖の80%を取り込んでいます。
この作用が十分に機能しなくなることを「インスリン抵抗性」といいます。
ツイミーグは、骨格筋において、インスリンシグナルの改善により、糖取り込み能を改善させる=インスリンの効きをよくする作用があります。
ツイミーグは、ミトコンドリア機能を改善する低分子化合物のスクリーニングから得た薬剤です。ツイミーグの基本骨格は、メトホルミンと類似しており、細胞内に入るトランスポーターも同様ですが、両剤で異なる点も多々あります。
ツイミーグは、ATPやNAD+の産生増加を介して、膵β細胞におけるグルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、ミトコンドリア呼吸鎖複合体ⅠおよびIIIへ作用して肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取り込み能改善)の2つの作用機序で血糖降下を示すと考えられている。両作用機序には、体内のエネルギーのATPを効率よく生産するミトコンドリアを介した各種作用が関係しているものと推定されます。
本試験は食事・運動療法以外の2型糖尿病治療経験がないまたは他の経口血糖降下薬の単独療法を12週間以上受けている日本人2型糖尿病患者さん213名を対象に、プラセボとツイミーグを24週間投与した国内第Ⅲ相試験です。
主要評価項目は「ベースラインから24週後のHbA1cの変化」で、ツイミーグ投与群はプラセボ群に対して、有意にHbA1cが低下していました。
加えて、多くの経口血糖降下薬との併用療法における有効性が確認されています。
1~5%未満に認められる副作用として、悪心、下痢、便秘が報告されています。
重大な副作用としては、低血糖(6.7%)が挙げられています。
特に、インスリン製剤、SU薬、速効型インスリン分泌促進薬と併用した場合に、低血糖リスクが上昇しますので注意が必要です。
なお、肝臓での糖新生抑制や骨格筋での糖取込みの改善など類似した作用をもつメトホルミンで見られる乳酸アシドーシスですが、ツイミーグでは承認時までの臨床で認められていません。
ただし、メトホルミンとツイミーグを併用した場合には、通常よりも消化器症状の頻度が上がるようです。
インスリン分泌を促進するSU剤は、血糖値と関係なくインスリンを分泌させるため、低血糖の副作用が出現しやすい。これに対してツイミーグは、DPP-4阻害薬と同様にグルコース依存的にインスリン分泌を促進するため、これまでの臨床試験においても単剤では低血糖が殆ど起っていません。ツイミーグは、消化管から分泌されるインクレチンホルモンには関与しないが、グルコース依存的にインスリン分泌を促進する点でDPP-4阻害薬と類似しています。
メトホルミンは、2型糖尿病治療において優れた薬剤ではあるものの、脱水や腎機能が低下した場合に重篤な副作用として乳酸アシドーシスが発現する。メトホルミンは、ミトコンドリアのグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(mGPDH)を抑制することで、脱水状態時等に乳酸濃度を上昇させる。一方、ツイミーグにはmGPDH抑制作用がないため、乳酸を基質としたATP合成を阻害しないことで乳酸アシドーシスを惹起し難いと考えられています。また、メトホルミンは、1割程度の2型糖尿病患者では消化器症状が強いために服用できない。対してツイミーグは、今のところ「強い消化器症状発症」について主だった報告はありません。
加えて、ツイミーグは、その作用機序から腎機能が低下した人にも投与しやすい薬剤であると推測される。とはいえ、慎重を期してツイミーグの添付文書は、「中等度又は重度(eGFRが45mL/min/1.73m2未満)の腎機能障害のある患者を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施しておらず、投与は推奨されない。」となっています。
GLP-1受容体作動薬も、便秘や吐気のような消化器症状が少なくない。その理由は、GLP-1受容体作動薬は、胃からの食物排泄を抑制する作用によって、血糖値を上がり難くしたり食欲を抑制する効果を発揮しているからです。ツイミーグに関しては、現在のところ同剤に特異的な副作用の報告はないものの、市販後に副作用調査による検証が必要です。
現在使われている経口血糖降下薬だけでも8種類ありますが、今回新たに登場したツイミーグは、従来の薬物治療にどう位置付けられるのでしょうか。
ツイミーグは、インスリン抵抗性の改善とインスリン分泌能の改善という2つの作用を持つことから、幅広い病態の2型糖尿病患者さんで効果を発揮できそうです。
特に、DPP-4阻害薬との相性が良いようですから、併用薬としての活躍の場が期待されます。
まずは2剤目以降に追加する薬剤と位置付けられますが、長期間、単剤でコントロールできる可能性を秘めていることから、今後、第1選択薬になってくるかもしれません。
2型糖尿病は基本的に、インスリン分泌が低下し、そこに肥満や生活習慣の乱れによるインスリン抵抗性が重なり合って惹起します。どの2型糖尿病患者にも、必ずインスリン分泌低下とインスリン抵抗性の2つの病態が様々な割合で存在するので、ツイミーグにはそれを同時に改善する可能性がある薬剤としてメリットがあります。
これまで、インスリン分泌を促進する薬剤とインスリン抵抗性を改善する2つの薬剤を投与しなければならなかったケースでも、患者によってはツイミーグ1剤で良好な血糖コントロールが期待できる可能性があります。