胃がん(早期胃がん・進行胃がん・スキルス胃がん)治療について
胃がんとは、胃にできた悪性腫瘍の総称です。胃がんの原因は様々ですが、正常な胃の粘膜の細胞が変化することで発症します。近年、胃がんの原因として注目されているのが、ピロリ菌の感染です。ピロリ菌感染者と、そうでない方を比べると、胃がんの発生リスクが大きく異なることがわかっています。
胃がんの特徴として、早期には自覚症状が現れにくいということが挙げられます。進行した場合でも、目立った症状が現れないことも少なくありません。そのため、胃がんを早期発見・早期治療するためには、1~2年に1回など、定期的に胃カメラ検査などを受けることが大切です。
胃がんは、がんによる死因の上位を占めています。しかし、早期発見・早期治療すれば治せるがんでもあります。当院でも行っている胃カメラ検査は、早期の胃がんの発見に有効な検査です。現在、お困りの症状がある方はもちろん、そうでない方も、40歳を過ぎたら定期的に胃カメラ検査を受けられることをおすすめします。
早期胃がん(隆起) | 進行胃がん | スキルス胃がん |
早期胃がんは症状を起こさないことが多く、進行してもほとんど症状がないことも珍しくありません。また、症状が現れても炎症や潰瘍などで起こるものと同じですから、見逃されて進行させてしまい、転移した先に現れた症状ではじめて気付くケースもあります。また、胃炎や胃潰瘍を疑って受診して、検査で早期胃がんが発見されることもあります。下記のような症状があったら、早めに受診してください。
など
これらの症状以外にも、胃がんが進行すると、次のような症状が現れることがあります。
など
リスクを高める主な要因として、ピロリ菌感染があります。ピロリ菌は衛生状態が悪い場所では井戸水などを介して感染するとされており、先進国では少なくなっています。日本でも若い世代の感染者数は減少傾向にありますが、中高年を中心に現在も感染率が高い状態が続いています。ピロリ菌感染があると胃の炎症を繰り返し起こして進行し、萎縮性胃炎になる可能性が高くなります。萎縮性胃炎は胃がん発症リスクがとても高い状態ですが、ピロリ菌感染がある場合には除菌治療に成功すると炎症や潰瘍の再発を抑えることができます。ただし、除菌治療に成功してもリスクが下がるとはいえゼロになるわけではないので、定期的に内視鏡検査を受けて早期発見につなげることも重要です。
その他、塩分の多い食事、野菜や果物の摂取不足、喫煙、過度な飲酒、ストレスなどの生活習慣が要因となって、胃がんが起こるとされています。
一方、スキルス胃がんの原因はっきりとはわかっていません。
また、いきなりスキルス胃がんの状態になるのではなく、初めは胃粘膜に凹んだタイプの小さながん(早期がん)が徐々に(2~3年かけて)スキルス胃がんに変化するようです。ということは、定期的に(毎年)胃内視鏡検査を受けることにより、スキルス胃がんになる前の比較的早期の状態で病変を発見できる可能性があると言えます。
胃がんの多くは、胃壁から発生する「腺がん」で、さらにそれは「分化型胃がん」と「未分化型がん」に分類されます。未分化型がんには、増殖の速度が速い「スキルス胃がん」も含まれます。
がん細胞が、まとまりながら増殖する胃がんです。高齢の方や、男性に多くみられます。未分化型がんと比べて、悪性度は低いとされています。
がん細胞が、ばらばらと拡散するように増殖する胃がんです。若年層や、女性に多くみられます。増殖の速度が速い「スキルス胃がん」もこれに含まれます。
スキルス胃がんはギリシア語で「硬い腫瘍」を意味する「skirrhos」という語に由来します(英語表記ではschirrhous)。スキルス胃がんは、胃の粘膜表面から発生する通常の胃がんと違い、胃壁の内部を這うように病巣が広がっていきます。そのためスキルス胃がんは発見がしにくく、発見されたときは既に進行がんであることが殆どです。発見されたときには60%以上の患者さんに転移が見られます。胃壁の内部を伸展するだけでなく増殖も速いので、内視鏡検査でも早期発見が容易ではありません。内視鏡検査技術が進化し、ほとんどの胃がんは今や早期で発見できる時代なのに、スキルス胃がんだけは進行がんの状態で診断されることが多いのです。
スキルス胃がんは、内部の胃粘膜表面に広がらないかわりに、逆に胃壁の外側に進展していきます。つまり、しまいには胃の壁から腫瘍が露出していきます。その一部が崩れて腹腔内にばら撒かれるように飛び火した状態が腹膜播種(ふくまくはしゅ)です。腹膜播種が生じると手術で除去することは原則として困難なため、手術による治療は選択されず抗がん剤治療などの化学療法が主となります。そうなると根治的治療も難しくなり、治療のゴールは延命ということになります。免疫療法や遺伝子治療等スキルス胃がんに対してこれからの治療が期待されます。
胃がんの主な検査方法として、「バリウム検査」と「内視鏡検査(胃カメラ検査)」が挙げられます。
バリウムを服用したうえで、レントゲンで胃の状態を確認する検査です。もう1つの検査方法である、胃カメラ検査よりも簡便に受けられますが、がんが疑われる病変を確定診断することはできません。また、早期の胃がんの発見にはあまり有効ではないといえます。
そのため、職場の健康診断でバリウム検査を受けて、異常が見つからなかった場合でも、胃がんをしっかりと予防したいのでしたら、胃カメラ検査を受けられることをおすすめします。
現在、胃がんの診断で最も有効な検査が内視鏡検査です。
内視鏡検査では、先端にレンズのついた管を口や鼻からいれて観察し、食道や胃、十二指腸を観察していきます。
胃の中を直接みることができるため、早期の胃がんの発見に有効なほか、疑わしい病変が見つかった場合には、それを採取して、病理組織検査を行うことも可能です。加えて、ピロリ菌の検査も出来ます。当院では、当日にピロリ菌感染の有無がわかる迅速ウレアーゼ法と病理検査(病理検査は1週間後に結果説明)でピロリ菌の判定をしっかりしていますので、ピロリ菌の有無が当日すぐに分かるメリットがあります。
胃がんを早期発見・早期治療したいということでしたら、1~2年に1回など、定期的に胃カメラ検査を受けられることをおすすめします。
ピロリ菌に感染すると胃がんのリスクが5倍
ピロリ菌は、胃の壁を傷つける細菌として知られており、現在日本人の約6~7割以上、特に40歳以上の方に感染が高いと言われています。また、ピロリ菌は、胃・十二指腸潰瘍や胃炎の原因といわれ、潰瘍患者の約80%以上の方がピロリ菌陽性という報告もあります。さらに、ピロリ菌に感染した胃炎や胃潰瘍をそのまま放置しておくと、胃がんになる可能性が高くなるということもわかっているのです。なんと、胃がんになった人の99%はピロリ菌の感染に関係していました。定期的な内視鏡検査とともにピロリ菌の存在を確認に除菌治療をすることで、胃がんの早期発見はもとより、胃がんの予防も可能になるのです。
鼻からの内視鏡(胃カメラ)で苦しくない検査
鼻からの内視鏡、一般的な口から行われる胃内視鏡は挿入時の嘔吐反射で辛い・苦しいなど、まだまだ抵抗のある検査の一つです。当院では嘔吐反射のない経鼻内視鏡を導入しています。嘔吐反射は舌の根元である舌根を通ると起こる現象ですが、経鼻内視鏡はその舌根を通らないため、嘔吐反射が起こりにくくなっています。経鼻内視鏡のスコープは従来の胃内視鏡の約半分の径(5.9mm)なので、鼻腔から挿入する事が可能です。よって検査中、口が塞がらないために医師との会話が可能となります。検査中いつでも医師に思いを伝えられるという安心感があります。
バリウム検査では、その凸凹を影として見て画像診断するため、隆起が低いとコントラストが出にくく、小さな病変や早期がんなどが見逃されるケースがあります。一方、胃カメラ検査の場合、ファイバースコープを使って検査を行っていた頃には、解像度が良くなかったため、高い精度が得にくかったのですが、今では「CCD(Charge Coupled Device)」や「CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)」により、内視鏡の解像度は飛躍的に向上したので、小さな病変まで描出できるようになりました。
今、問題となっているのが、「バリウム検査で見つかるものは、内視鏡でも見つけられる」ということです。以前は、スキルス胃がんなど、胃の粘膜をはっていくようながんの発見は、バリウム検査の方が優位とされていましたが、技術の進歩により、今では内視鏡でも発見できる時代になりつつあります。
また、バリウム検査で疑わしい病変が見つかった場合、精密検査として胃カメラ検査を受けることになります。であれば、「最初から胃カメラ検査を受ければいい」という風にもいうことができます。
胃カメラ検査を受けて異常が見つからなかったものの、胃痛や吐き気などの症状が続くようでしたら、再度、当クリニックで胃カメラ検査を受けられることをおすすめします。胃カメラ検査は胃がんの発見に有効な検査ですが、検査環境によっては、異常が見逃される場合もあります。例えば、たまたま病変に粘液が付着していて、診断がつかないようなケースもあれば、嘔吐反射がひどく、十分に胃を拡張させられなかったなど、検査を行う側の技術的な問題で見逃されるケースなどもあります。
他院で胃カメラ検査を受けて異常はなかったが、症状が続くような場合には、一度当クリニックへご相談ください。
胃がんの治療方法には、大きく分けて、「内視鏡的切除」「外科手術」「化学療法(抗がん剤治療)」「分子標的薬」「免疫療法」の5つがあります。胃がんの治療が必要な患者様には、近隣の基幹病院をご紹介させていただきます。
悪性度や進行度により検討されますが、基本的に遠隔転移が認められなければ、外科手術が第一選択になります。がんが胃の粘膜にとどまっている早期がんの一部は、内視鏡による切除でも完治することが多く、内視鏡的切除が選択されます。早期がんでない進行がんの場合、外科手術に加えて、抗がん剤治療を併用されることが多いです。
内視鏡下で、がんの病巣を切除する治療です。内視鏡の進歩により、従来では切除が難しかったような病変も、的確に治療することができるようになりました。
胃全体、または2/3以上を切除する「定型手術」や、一部だけを切除する「縮小手術」のほか、まわりの臓器も一緒に切除する「拡大手術」など、病状に応じて適切な方法が検討されます。
抗がん剤治療は、S-1をはじめ、シスプラチン、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセルなどがあり、それぞれを単独または組み合わせて投与するのが一般的です。
S-1で効果が上がらない場合は、FOLFOX(フルオロウラシル、ホリナート、オキサリプラチンの3剤を併用する薬物療法)も検討されます。
最近は、次の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの従来の抗がん剤に比べて副作用が少なく治療効果が期待できるものが治療応用できるようになってきました。
分子標的薬とは、がん細胞の表面にある特異的なタンパクや遺伝子を標的として効率よく攻撃できるように設計された治療薬です。ただし、残念ながら副作用は相応に発生し生活の質の低下は完全には避けられません。また、完全に治癒を目指す治療薬ではなく、延命が治療の目標である点は従来の抗がん剤治療と大きく変わりません。
免疫療法として、免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞による免疫細胞の阻害が起きないようにして免疫細胞が的確にがん細胞を攻撃できるようにする治療薬です。京都大学の本庶教授がノーベル賞を受賞したのはこの免疫チェックポイント阻害剤の開発の功績があったからです。ただし、この免疫チェックポイント阻害剤は間質性肺炎や重症筋無力症などの重い副作用が発生することがあり使用には細心の注意を要します。
当院では、副作用が少ない治療として、胃がんなど、手術や抗がん剤治療に手も難治に至った進行がんの症例に対し、新樹状細胞ワクチン療法と活性NK細胞療法とを併せたハイブリッド免疫療法や、ガン遺伝子RNAの静止化を行うSOT(Supportive Oligonucleotide Technique)と呼ばれる治療法(アポトーシス・アンチセンス治療)、あるいは、抗ガン効果をもたらす高濃度ビタミンC点滴療法を実施しております。
ガン免疫療法
https://www.okochi-cl.com/original97.html
腫瘍幹細胞検査
https://www.okochi-cl.com/original159.html
高濃度ビタミンC点滴療法(抗ガン効果)
https://www.okochi-cl.com/original81.html
典型的なスキルス胃がんに対する薬物治療はほぼそのプロトコールが決まっており、1stライン、2ndライン、3rdラインと3段階で実施されることが一般的です。
1stラインでは、TS-1ないしはカペシタビン(商品名:ゼローダ)とシスプラチンかオキサプラチンの併用療法(化学療法)が行われます。
がん細胞の表面に発現しているタンパクを調べてHER2陽性の場合にはこの併用療法に抗HER2治療薬の分子標的薬であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を付加します。
1stラインが効かなくなるか副作用が大きい場合は2ndラインに移ります。
2ndラインではパクリタキセル(商品名:タキソール、アブラキサン)とラムシルマブ(商品名:サイラムザ)の併用療法などを行います。
そして、これらも使えなくなってしまうと、3rdラインのニボルマブ(商品名:オプジーボ)という免疫チェックポイント阻害剤を選択します。
この薬剤は間質性肺炎や重症筋無力症などの重い副作用が発生することがあり使用には細心の注意を要します。