「のどがつかえたような感じがして、耳鼻科に行ってきたんですが、異常はないと言われました」
「のどに違和感があって、病院に行ったら胃酸の逆流のせいと言われ、お薬を飲みましたが、全く効きません」
のどの違和感・つかえについてご相談に来られる方から、よくそのようなお話を伺います。
のどのつかえや違和感の症状を引き起こす原因の一つに、“逆流性食道炎”やその仲間のひとつである“咽喉頭逆流症”という病気があります。
特に咽頭喉頭酸逆流症は、のどの症状を起こす病気として、最近注目されているのですが、実は診断が難しく、検査したが異常を認めず、“気のせい”や“ストレス”などと言われてしまい、見逃されていることも多い疾患の一つです。
しかし、異常なしと言われた方でも、再度詳しく問診を行い、胃カメラを用いて詳細に咽喉頭を観察することで診断がつき、適切な治療に結びついているケースも多々あるため、お困りの方は是非ご相談ください。
のどの違和感・つかえ感は、先ほど説明した胃酸の逆流によるもの(逆流性食道炎・咽喉頭酸逆流症)が最も頻度が高いと考えられていますが、
それ以外にも
などの病態でも起こります(詳細は下記のページを参照)。
症状があるにも関わらず医療機関で異常なしと言われた方や、逆流性食道炎かもと言われてお薬飲んだけど治らない、といった方の中には、胃酸の逆流ではなく、粘膜の知覚過敏やアレルギーなどが原因であることも考えられます。
そのような場合には、胃酸を抑えるような逆流性食道炎の治療ではなかなか症状が改善せず、「薬を飲んでも治らない」と言うような状態になってしまいます。
また、食道がん・咽喉頭がんなどによる食道やのどの通過障害でものどの症状は起こり、放っておくと悪化することもあるため、症状のある方は一度は詳しく診察・検査を受けることをお勧めします。
好酸球性食道炎とは、アレルギーを起こしたときに出現する白血球の一種である「好酸球」が、食道の粘膜に集中し慢性的に炎症をおこすことで起こる病気です。
30~50歳代の男性に好発します。女性や小児にも発症する疾患です。
症状がでて胃カメラ(内視鏡)を受けて見つかる方もいますが、たまたま検診で胃カメラを受けて見つかる方もおられ、検診などでの胃カメラの受診率の増加に伴い、最近は有病率が増加しています。
食物や大気汚染によるアレルギー反応が主な原因と考えられていますが、調べてみてもアレルギーの元がはっきりとしないこともあります。好酸球性食道炎は春から秋の暖かい季節に発症しやすい事から、空中のカビや花粉の存在も発症に関わっているのではないかと考えられています。
好酸球性食道炎は無症状の方もおられますが、慢性的な炎症が起こることで食道の機能(蠕動して食事を胃に送る)が障害され、下記のような症状が出ます。
長期間炎症が続くことで、食道が狭窄を来し食事の通過障害(食べれない・食べても吐いてしまう)になることもあります。
必須項目
参考項目
好酸球性食道炎は、無症状の場合には特に治療を行わず様子を見る場合もありますが、症状がある方や、内視鏡上の炎症がひどい方は治療を行います。
① 食事療法
好酸球性食道炎の原因となっているアレルギーを突き止め、その食物を抜いた食事をとって頂くことで改善することがあります。しかし、調べてみてもアレルギーの元がはっきりとしない例が多いです。
海外では、大豆、小麦、卵、豆類、牛乳、魚介類の6種類の食物除去(six food elimination diet; SFED)で64%の患者に好酸球浸潤改善を認め、自覚症状や内視鏡所見の改善を認めたとの報告や、牛乳、卵、小麦、豆類の4種類の食物除去(four food elimination diet; FFED)で55%に有効で、FFED無効例のうち1/3はSFEDが有効であり、除去食が有効な症例は全体の72%を占めると報告されています。
一方、日本では除去食治療はほとんど行われていませんが、特定のアレルゲンが同定できれば根本的な治療法として有用であると考えられます。
② 薬物療法
A.制酸薬
好酸球性食道炎の約半数の方はプロトンポンプインヒビター(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と呼ばれる胃酸を抑える薬で改善すると言われており、まず一番最初に試してみるべき薬です。
B.ステロイド
免疫反応を抑えるステロイドを用いアレルギーを抑制します。
喘息に用いられる吸入用ステロイドの嚥下療法(フルチカゾンやブデゾニドを1日2回嚥下)、それでも効果がない場合や狭窄を来している場合にはステロイドの錠剤などを用います。
C.その他
ステロイドは副作用も多彩なため、ステロイド以外の免疫抑制剤や抗ロイコトリエン拮抗薬といったアレルギーを抑える別の薬を選択することもあります。
好酸球性食道炎は薬物療法で症状が落ち着いた場合でも、やめてしまうと1年以内に半数以上の方が再発してしまいます。基本的にはお薬を続けながら、食事療法も併用し、再燃予防も合わせて行っていきます。
頻度としてはかなり稀ですが、アレルギーによる食道炎(好酸球性食道炎)で、のどのつかえ感が出現することがあります。
胃カメラでは、線状の溝(黄矢印)、細かい白点(白矢印)などが出現することが多く、生検にて診断をつけます。
バレット食道は、胃と食道のつなぎ目から食道下部にかけての食道粘膜(扁平上皮といいます)が、胃の粘膜(円柱上皮といいます)に置換されている状態をいいます。
バレット食道には、食道腺がんの発生に関係する腸上皮化生が80%程に認められており、食道がんに対してリスクのある状態といえます。(年間発癌リスク0.3%程度)
食道側への胃の粘膜の広がりによって
①3cm未満のショートバレット食道(SSBE)
②3cm以上のロングバレット食道(LSBE)
とに分けられます。
発癌のリスクがLSBEの方がSSBEに比べ倍ほど高いというデータがあります。
原因については、胃酸や胆汁の食道への逆流(いわゆる逆流性食道炎です)によっておこるといわれています。胃酸の逆流によって、食道粘膜が炎症を繰り返し、改善の過程で細胞が置き換わっていくと考えらえています。
食道と胃のつなぎ目の部分から食道側に向かって胃の粘膜が上がってくることで、胃と食道の境界線が口側に移動したように見えます。
一度発生したバレット食道が改善することはありません。
ただ、胃酸の逆流などによってバレット食道が広がっていくのを抑えるために、逆流性食道炎同様に胃酸の分泌過多を抑える薬を使っていくことがあります。
また、バレット食道は食道腺がんの発生のリスクになるため、定期的な胃カメラを行うことを勧めております。
食道がんは、主に「食道扁平上皮がん」と「食道腺がん」の2種類があります。
欧米では「食道腺がん」が多いのですが、日本では圧倒的に「食道扁平上皮がん」の割合が高くなっています。
(その他、食道未分化がんなど稀ながんもありますが、頻度はかなり少ないです。)
日本人に多い「扁平上皮がん」は、お酒やたばこを吸う方に出来やすく、逆にお酒やたばこをしない方にはほとんど出来ないと言われています。
また扁平上皮がんは、咽頭にも出来やすく、食道がんと同じように飲酒と喫煙が関わっているため、アルコール多飲者やアルコールを飲んだらすぐ顔が赤くなる方、喫煙者の方には胃カメラを定期的に受けることを勧めます。
一方「腺癌」は、食道と胃の接合部近傍のバレット上皮と呼ばれる部位に出来る胃腺由来の癌で「バレット腺がん」とも呼ばれており、アルコールや喫煙とはさほど関連はないものの、逆流性食道炎を繰り返されている方や肥満の方はリスクが高まると言われており、注意が必要です。
早期の段階では症状が出ることはほとんどありません。
進行してくると
などが起こってきます。
■ 食道扁平上皮がんの内視鏡写真
食道の扁平上皮がんです。ご本人の自覚症状はなく、たまたま行った胃カメラで偶然見つかったものです。
幸いにも早期に発見することが出来たので、内視鏡で治癒することが出来ました。
食道の早期がんです。
通常の内視鏡観察ではわずかな赤い面として観察されますが(矢印で囲まれた部分)、非常にわかりにくいため注意して観察する必要があります。
NBIモードで観察すると茶色の領域として観察され、通常の観察に比べ視認性が上がります。
特にオリンパスの最新のNBI(第二世代)は従来のものに比べより視認性が向上しております。
当院では通常観察とNBI観察をどちらも行い病変の見落としをしないような検査を心掛けております。
ヨードという特殊な液体を散布すると、がんの部分だけ違う色として認識されるため、がんの広がりを正確に把握できます。
■ 食道腺がんの内視鏡写真
食道のバレット上皮に生じた食道腺がんです。
■ 食道がんによる通過障害の写真
食べ物が食道に詰まって下に降りて行かない感じとの訴えで来院されました。
胃カメラを行ってみると中部食道に進行がんを認め、内腔を圧排して通過障害をきたしている状態でした。
食道がんの治療はその進行度によって大きく変わります。
早期癌のうち、リンパ節の転移のリスクが少ないと思われる病変については、まず、内視鏡での治療を第一に考えます。
ただ、食道がんは進行が早いため早期に見つけるには、症状が出る前に胃カメラの検査を受ける必要があります。食道がんのリスクである、飲酒歴(特に顔が赤くなる方)・喫煙歴のある方は定期的に検査をうけることが大切です。
また内視鏡治療の適応が低い食道がんに対しては、手術や放射線療法、抗がん剤治療、またはその組み合わせ、手術+抗がん剤、放射線療法+抗がん剤があります。
食道の粘膜に「カンジダ」という真菌が繁殖した状態です。
真菌ってあまり聞きなれない方もおられると思いますが、簡単にいうとカビの一種です。
食道にカビが繁殖!?
と聞くと驚かれるかもしれませんが、カンジダはもともと人間の皮膚などに住み着いている常在菌です。
カンジダは空気にさらされずに湿った環境を好むため、食道は繁殖にうってつけの場所で、私たちの体の免疫が低下した際などに食道に感染して繁殖します。
1.免疫力の低下
高齢者や糖尿病などの体の免疫が低下している方や、体の免疫を抑える薬(ステロイドなど)を服用している人などに見られます。
また、ストレスや疲れなどで身体の免疫が低下すると特に基礎疾患のない正常な方にも発生することもあります。
2.抗生剤などの服用
抗生剤などを飲んでいて、もともと住み着いていた常在菌のバランスが乱れる場合があります。このような際にはカンジダに感染することがあります。
無症状のことが多いですが、のどの違和感・つまり感、食べ物の飲み込みにくさ、食道の異物感などがでることがあります。
内視鏡検査では「酒粕様の白斑」と表現される白い点状のものとして観察されます。
食道カンジダは放っておいても自然と治ってしまうことが多く、症状がなければ様子をみることがほとんどです。
ただ、のどや食道のつまり感や違和感・飲み込みにくさなどの症状があれば、抗真菌薬の内服薬にて治療を行います。