抗インフルエンザ薬の予防投与は、インフルエンザに「絶対かかりたくない」時の切り札です。
インフルエンザの予防には下記のように様々な方法があり、その中でのインフルエンザワクチン接種が重要ですが、残念ながら、ワクチンを打っていても発症を完全に防げるわけではありません。
入学受験を間近に控えている、大事なプレゼンが迫っているなど、人生の中で「どうしても今だけはインフルエンザにかかりたくない!」という局面は訪れるもの。そんなときに同居する家族がインフルエンザにかかってしまったら、うつるリスクが極めて高くなります。
そうした緊急事態に検討したいのが抗インフルエンザ薬の予防投与です。予防内服することによって、7~8割の方がインフルエンザの発症を防げると言われています。
抗インフルエンザ薬の予防投与はインフルエンザ患者との接触から36時間以内に受けられれば最も効果を発揮させることができるとも言われています。
ですから、一緒に住んでいる家族や同居人がインフルエンザに感染してしまい、患者を看病する必要がある場合などには、抗インフルエンザ薬の予防投与を検討すべきでしょう。
インフルエンザの治療に使われる抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)は4種類。そのうち、点滴薬のラピアクタ(一般名:ペラミビル)を除いた3種類、すなわち、経口薬のタミフル(一般名:オセルタミビル)、吸入薬のリレンザ(一般名:ザナミビル)、吸入薬のイナビル(一般名:ラニナミビル)は、インフルエンザの予防に使うことが認められています。
商品名 | タミフル | リレンザ | イナビル | |
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薬の種類 | 経口薬 | 吸入薬 | 吸入薬 | |
予防投与の 用法・用量 |
大人 | 1回75mg(1カプセル)を1日1回7~10日間 | 1回10mg(2ブリスター)を1日1回10日間 | 1回40mg(2キット)を1回、または1回20mg(1キット)を1日1回2日間 |
子ども | 1回2mg/kg(※1)(最大75mgまで)を1日1回10日間 | 大人と同じ | 10歳以上は大人と同じ、10歳未満は1回20mg(1キット)を1回 | |
薬剤費 (自費) (※2) |
大人 | 1,981~2,830円 | 3,058円 | 4,280円 |
子ども | 最大6,100円(ドライシロップの場合) | 大人と同じ | 10歳以上は大人と同じ、10歳未満は2,140円 |
※1 子どもの体重1kg当たり2mg
※2 薬剤費は薬価からの単純計算であり、実際は異なる場合がある。薬剤費のほかに、診察代や調剤費なども全額自己負担になる
抗インフルエンザ薬には、体の中でインフルエンザウイルスが増えるのを抑える作用があります。抗インフルエンザ薬を予防的に使っていると、インフルエンザウイルスに感染しても体の中でウイルスが増えにくくなるため、結果としてインフルエンザの発症を予防できるのです。
タミフル、リレンザ、イナビルを予防に用いる場合は、いずれも原則として、治療に使う量の半分を、倍の期間使用します。使用期間は薬によって異なり、タミフルは7~10日間、リレンザは10日間、イナビルは1~2日間です(表1)。あくまで予防としての使用ですので、ワクチンと同様、公的医療保険は使えず自費診療の扱いとなります。また、インフルエンザ予防接種の場合にはワクチンを摂取することで1シーズンの免疫力を高く保ちつづけることができますが、抗インフルエンザ薬の予防投与の場合には、投与期間しか予防効果がないと言われています。(イナビルは服用開始から10日間)。
抗インフルエンザ薬の予防投与を受けるには、原則として、(1)家族など同居する人がインフルエンザにかかっていることに加えて、(2)かかった場合に重症になりやすい人であること、具体的には以下のいずれかの条件に当てはまる必要があります。
【インフルエンザにかかった場合に重症になりやすい人】
では、高齢者ではなく、基礎疾患もないけれど、入試の直前に家族がインフルエンザにかかってしまった……など、上記の条件に当てはまらないケースの場合、予防投与は受けられないのでしょうか。
この場合は、薬剤の添付文書に記載されていない使い方(適応外処方)となるため、万一、重い副作用が起こっても「医薬品副作用被害救済制度」の対象とはならず、補償が受けられないというデメリットがあります。また、抗インフルエンザ薬を使い過ぎると、薬への耐性を持ったウイルスが出現する恐れがあります。このため、個別の事情をどう受け止め、適応外処方の可否を判断するかについては、医師によって考えが異なります。まずはかかりつけの医師に、事情を説明し、相談してみましょう。