命に関わる狭心症・心筋梗塞とは?
狭心症は、心臓を取り巻いている血管(冠動脈)の血流が悪化し、心臓が一時的に酸欠状態となって起こります。
狭心症には、労作性狭心症と異型狭心症の2種類があります。
重い荷物を持ったり、坂道を登る時など、心臓に負担がかかった時に症状が出る場合は「労作性狭心症」といい、主に冠動脈の動脈硬化によって内径が狭くなることが原因です。一方、睡眠中や安静時に突然、発作を起こすものを「安静時狭心症」または「異型狭心症」と呼び、冠動脈の一過性の痙攣が原因だと言われています。
糖尿病のある方や高齢では、典型的な症状に乏しいことがあります(非定形的心筋梗塞)。 症状の回数が増える、安静時にも症状が生じるなどの場合は、不安定狭心症と呼ばれます。心筋梗塞に移行する可能性が高くなっていると考えられており、緊急に治療する必要があります。 なお、冠動脈に狭窄があり虚血が生じても症状を認めない場合、無症候性心筋虚血と呼ばれます。この場合も治療の対象となります。
特に、糖尿病の方は、発症時に多枝病変、広範囲の病変を有するなどすでに進行した例が多く、心不全、不整脈を起こしやすいです。
糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドロームの方は、狭心症・心筋梗塞の高リスク者と言われています。
心筋梗塞とは、心臓を取り巻いている血管(冠動脈)の血流が途絶えたために、心筋が酸素の供給を受けられずに壊死する病気です。心筋梗塞は突然起こり、命を奪うこともある恐ろしい病気です。
主に症状・心電図・血液検査、心臓超音波検査(心エコー)から診断します。場合によっては、冠動脈CT検査や冠動脈造影検査も必要になります。
狭心症 | 心筋梗塞 |
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狭心症と心筋梗塞では、症状が続く時間にはっきり違いがあります。狭心症の症状は長くても15分までです。
急性心筋梗塞ではふつう30分以上、前胸部に強い痛みや締めつけ感、圧迫感が続き、痛みのために恐怖感や不安感を伴います。
その痛みはほとんどの場合、前胸部中央や胸全体で、まれに首、背中、左腕、上腹部に生じることがあります。冷や汗、吐き気、おう吐、呼吸困難を伴うこともあります。
狭心症では、発作が起きていない時の心電図はほとんど正常なことが少なくありません。発作時は心電図に異常が現れますが、15分以内に消失しますから、病院へ行くまでには元の状態に戻ってしまいます。
ですから、狭心症が疑われる場合、発作時の状態を調べるため、運動をしてもらいながら心電図をとります。これを「負荷心電図」といいます。
心筋梗塞では特徴的な心電図の変化が現れます。狭心症と異なり、変化が残るため、多くの場合、診断は容易です。診断時に以前の心電図があれば、どう変化したのかを比較してもらうのに役立ちますから、担当の先生からコピーをもらっておくとよいです。
狭心症は血液検査に異常は見られませんが、心筋梗塞症では心筋細胞が破壊されて細胞から酵素が血液中に漏れてくるため、心筋梗塞の診断に役立ちます。血液中にこれらの物質がみられる場合は、心筋が壊死していることを強く示唆します。クレアチニンキナーゼ(CK)、クレアチンキナーゼMB(CK-MB)、トロポニンTなどがあります。
心臓超音波検査では、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能などを評価します。虚血がある場合に、壁運動に異常がみられることがあります。
造影剤を静脈注射し、心電図と同期させながらCTをとることで、冠動脈の狭窄の有無を診断します。画像診断装置の進歩により、非侵襲的に冠動脈の性状を評価できるようになりました。但し脈の速い方や不整脈のある方、冠動脈石灰化が強い方では評価が難しいこともあります。
カテーテルという細長いチューブを手首や肘、足の付け根の血管を通して心臓まで挿入し、造影剤を注射して冠動脈のX線撮影を行います。冠動脈の狭窄の程度、部位、病変数などを詳細に評価でき、冠動脈疾患を診断するのに最も正確な評価が出来る検査です。
病気にならないためには、動脈硬化の進行を予防することが大切です。それには危険因子と呼ばれる因子の除去に努めることが重要です。
禁煙、塩分・糖分・脂肪分のとりすぎに注意し、バランスのよい食事をして、高血圧症・糖尿病・高脂血症を予防すること、適度な運動(毎日適当な距離を歩く習慣をつけて下さい)、気分転換を図り、ストレスを避け、規則正しい生活を送ること、血縁の方に心筋梗塞症や狭心症の方がいれば、特に長年の悪い習慣を改める必要があります。
また心筋梗塞は過度の疲労や緊張、暴飲暴食、天候の急変などをきっかけに生じることが多いので、それらを避けることが大切です。胸痛があったときにはすぐに医療機関に相談して下さい。
たばこの煙には多くの物質が含まれ、特に循環器ではニコチンや一酸化炭素の影響が大きいと言えます。また血管の内皮にも影響し、血管収縮、血液凝固、動脈硬化をもたらします。たばこを吸いますと血圧が上がり脈拍が増えます。たばこの煙は、そばにいる方にも間接的に悪い影響を与えます。
伝統的な和食の良さが見直されています。基本的に和食として、食物繊維(海草、キノコ、茎野菜)を多くとり、塩分は1日10g以下に抑え、ミネラルの多いバランスの良い食事にしましょう。大豆製品(納豆、豆腐、豆乳など)や牛乳はよいでしょう。
軽い運動が狭心症や心筋梗塞の予防となります。有酸素運動を週3~4回30分以上、可能なら毎日30分程度すればよいでしょう。瞬発力が必要な無酸素運動は避けて下さい。また早朝や深夜は、冠動脈が日中より収縮していることが多いので避けて下さい。起床後すぐではなく、1時間後ぐらいが適当でしょう。
精神的・肉体的ストレスがかかりますと、血液中のコレステロールが上昇して動脈硬化が進行しやすくなり、また血中の交感神経系ホルモンが増え、血圧が上昇して冠動脈内皮の傷害が生じやすくなり、心筋梗塞症の引き金となります。『焦らず、怒らない、明日できることは今日しない』という精神で、のんびりと着実な生活リズムをつくりましょう。
診断の結果、狭心症とわかると、発作の時に使う舌下錠(「ニトログリセリン」や「ニトロール」)やスプレーを処方します。
症状(狭心痛)が出た時、錠剤やスプレーを舌の下に含みますと、口の中の粘膜から吸収され、痛みは数分でなくなります。飲み込まずに口の中で溶かすことが大切です。
狭心痛が生じ、舌下錠を5分ごとに3回使用しても消えない場合は、重症発作です。心筋梗塞の可能性もありますから、直ちにかかりつけの医師か専門病院へ連絡してください。
狭心症の治療は、薬物療法が基本となります。抗血小板薬(アスピリンなど)、硝酸薬、ベータ遮断薬などが用いられます。冠攣縮性狭心症ではカルシウム拮抗薬が有効です。しかし、薬を使っても日常の生活で狭心痛が簡単に起こる場合には、冠動脈造影検査を受け、手術(冠動脈バイパス術)や“カテーテル治療”が必要かどうか検討してもらうことになります。
これらの治療法を具体的に説明します。
狭心症の薬には「血管拡張薬」と「ベータ遮断薬」があります。血管拡張薬は、冠動脈を広げて血流をよくする働きと、全身の血管も同時に広げて心臓の負担を軽くする働きがあり、これには硝酸薬とカルシウム拮抗薬があります。
ベータ遮断薬は、興奮する神経である交感神経の活動を抑え、血圧を低くし、脈拍数も少なくして、心臓の負担を軽減する薬です。どちらも血圧を下げますから、高血圧の治療薬としてもよく使われます。
狭心症には、血管拡張薬やベータ遮断薬の中から2、3種類を併せて処方します。また冠動脈の動脈硬化を抑え、心筋梗塞症を予防するため、アスピリンを少量使用します。
アスピリンは血小板の活動を抑えますから、血栓ができにくくなります。同様の働きを持つ薬としてパナルジンも使用します。
動脈硬化で狭窄した冠動脈を広げる手術で、先に説明した“カテーテル治療”です。<先端に風船(バルーン)のついたカテーテルを使って、冠動脈の狭窄部でこの風船をふくらませ、動脈を広げるのです。風船で十分に広がらない場合は、特殊な合金による金属を網の目状にした筒(ステント)を血管の内部に入れ、内側から補強する方法があります。
また、小さな刃を回転させ、動脈硬化部を切り取る「動脈硬化切除術」(アテレクトミーとロタブレーター)もあり、最も適した方法を選びます。
これらの方法は、冠動脈造影検査と同じ要領で、局所麻酔し、カテーテルは足の付け根やひじの動脈から挿入します。
冠動脈の狭窄部が“カテーテル治療”を行うのに難しい場所にあったり、この治療法では危険を伴う時、また複数の個所が狭くなっている時は、冠動脈バイパス術が必要になります。バイパスには足の静脈か、胸、腕、胃の動脈を使います。
急性心筋梗塞は緊急に治療する必要があります。通常、緊急心臓カテーテル治療後に、CCU(心血管系疾患集中治療室)に収容されます。
初期治療として、酸素吸入や、抗血小板薬、硝酸薬、鎮痛薬などの投与が行われます。
心筋梗塞が確定的であれば、冠動脈の血流を早期に回復させるために、心臓カテーテル検査が行われます。心臓カテーテル検査を行い、冠動脈の閉塞または高度狭窄が確認された場合、引き続いてカテーテルによる治療(経皮的冠動脈形成術)が行われます。 重症の場合にはバイパス手術が選択されることもあります。
心筋梗塞によって高度にポンプ機能が障害された場合、血圧が低下しショックになることがあります。この場合大動脈バルーンパンピングや経皮心肺補助装置などが用いられることもあります。また、一時的に徐脈になることがあり、一時的ペースメーカーが挿入されることもあります。
主な合併症には、以下のようなものがあります。
心筋の一部が壊死すると、血液を送り出す筋肉が少なくなります。心筋が広範囲に壊死すると心臓のポンプ機能が低下し、心臓は体が必要とする量の血液と酸素を送り出せなくなり、心不全を起こします。
心室細動などの致死的な不整脈は心筋梗塞による死亡の原因の一つです。心室細動は治療が遅れると分単位で死亡率が上昇し、病院外での死亡の原因の多くを占めると考えられています。院外での発生の場合、周囲の人によるAEDなどを用いた治療が重要です。
頻度はまれですが、心臓が血液を送り出す圧力で、壊死した部分の心筋に穴があくことがあります。緊急手術が必要となります。
その他の合併症として僧帽弁閉鎖不全症、心室瘤(心室壁内に膨隆ができる)、血栓(塞栓)症、心膜炎などがあります。