下記のような症状はありませんか?
もしこうした症状が長期間にわたって続くようなら、過敏性腸症候群の疑いがあります。
過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)とは、腹部の検査を受けても、特に異常は認められないのに、お腹を中心としたさまざまな症状が現れる「症候群」です。症状は、腹痛、胸部膨満感(ガスなどがたまってお腹が張る感じ)、便通異常(下痢・便秘)、嘔気などがその代表格ですが、ときには頭痛、めまいといった消化器系以外の症状が出てくる場合もあります。以前は過敏性大腸症候群と呼ばれていましたが、腸管の機能異常は大腸だけでなく、小腸も関係していることがわかってきたため、最近は、過敏性腸症候群と呼ばれています。
症状の傾向はおおまかに分けて、腹部の痛みや張りを伴う便秘が特徴の「便秘型」、腹痛を伴う下痢が特徴の「下痢型」、そして便秘と下痢の症状を併せもつ「混合型」、「分類不能型」の4つのタイプがあり、症状は排便によって軽快することがほとんどです。
過敏性腸症候群の4つのタイプ
症状はごく軽いものから重いものまであります。便通の異常は、下痢型では軟便~水様便、回数も1日数回から数十回と幅があります。
便秘型では1回あたりの排便の量が少なく残便感が強く、時に兎糞状の便になります。
消化管の症状も下痢や便秘、腹痛などだけでなく、吐き気、げっぷ、胸やけなどの上部消化管症状が出現することもあります。その他にも、頭痛、肩こり、めまい、動悸、頻尿などの全身症状や、抑うつ気分、不安感、焦燥感などの精神的な症状があります。なぜ様々な症状が起こるのかというと、腸管のみでなく全身の平滑筋の機能異常があるからと考えられています。
過敏性腸症候群の症状には、出やすい状況があります。一般的には、仕事中、会議中、授業中など、強いストレスや緊張を感じる時に、症状が出やすくなります。その逆に仕事や学校が休みの日や、通勤・通学中でも帰社・下校時には症状が出にくいということがあります。
過敏性腸症候群の原因ははっきりとは解明されていませんが、現在のところ「何らかの誘因」が引き金となって中枢・末梢神経系や消化管ホルモンなどの調節がうまくいかなくなり、小腸・大腸の運動がスムーズに行われなくなったり、消化管が知覚過敏の状態になったりすると考えられています。
この「何らかの要因」は不規則な生活や暴飲暴食なども挙げられますが、多くの場合、不安・緊張などのストレスだとされます。
IBSの症状は、例えば月曜日の朝や、外出前に強くなる傾向がある一方、睡眠時や休日前にはあまり症状は見られません。もともと胃腸はストレスをはじめとする精神的な刺激に敏感な臓器であり、ストレスが強ければ強いだけ、消化管にも影響が出やすくなるというわけです。
その意味で、IBSが家庭や職場・学校などの人間関係や、環境の変化などさまざまなストレスにさらされている、現代人ならではの病気なのかもしれません。
腸内細菌が過敏性腸症候群の原因の一つ
腸に異常が見られないのに、なぜ、痛みや不快感、便通異常が起こるのでしょうか。その原因は複数あると考えられ、はっきりとは解明されていませんが、最近の研究から「腸内細菌」が誘因であることがわかってきました。
過敏性腸症候群の人は、そうでない人と比べて腸を拡張する刺激に対して敏感に反応します。その原因のひとつとして、腸内細菌のバランスが崩れることによって悪玉菌が増え、腹痛や腹部の不快感といった知覚過敏が起きやすいということがわかってきたのです。実際、過敏性腸症候群の患者における腸内細菌叢の研究では、菌種に関してさまざまな報告がなされていますが、一般的に、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)が増加し、ラクトバシルス属(Lactobacillus)およびビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)族(Bifidobacterium)が減少すると言われています。
腸と脳は密接な関連があり、お互いに情報を伝え合って機能しています。脳の中枢神経は、腸の運動や分泌、免疫機能、血液の流れなどを調節し、腸からも脳に情報が伝達されています。私たちがストレスを感じると脳から腸にその情報が伝えられます。すると腸の運動を亢進させるだけでなく、腸内細菌のバランスにも影響を及ぼすのです。
診断は問診が中心で、自覚症状、症状のパターン、生活習慣、食事、ストレス、排便回数と便の状態、いつから症状があるか、どのような状況下で症状が出るか、これまでにかかった病気はないかどうか、生活上のストレスなどについて詳しく確認し、他の疾患を除外することで診断します。大腸がんなどや炎症性腸疾患などを除外するため、便中の血液の有無を調べる便潜血の検査、血液検査、大腸内視鏡検査を行なうこともあります。
過敏性腸症候群の国際的な診断基準としてRome IIIが用いられています。
過敏性腸症候群のRome III診断基準
最近3ヶ月間、月に3日以上腹痛や腹部不快感が繰り返し起こり、次の項目の2つ以上があること。
6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記基準をみたすこと。
腹部不快感は、痛みとは表現されない不快な感覚を意味する。病態生理学的研究や臨床研究に際しては、週に2日以上の痛みあるいは不快症状があるものを的確症例とする。
食 事 療 法
過敏性腸症候群の患者さんは規則正しい生活と十分な睡眠が推奨されます。刺激物摂取や、夜間の大量の食物摂取は避けることが望ましいです。さらに、特定食物で症状が起こりやすい患者さんはその回避により症状が改善する場合がありますので、食生活を振り返ることが解決の鍵となることがあります。
過敏性腸症候群の食事療法は、バランスのとれた食事をゆっくりと規則正しくとることがポイントです。下痢型、便秘型、下痢・便秘交替型のパターンに応じて適切な食事のポイントをとりましょう。
■ 下痢型
香辛料、冷たい飲み物、油分の多い食品、発酵食品など、腸を刺激して下痢を悪化させる食べ物は控えましょう。
■ 便秘型
水分や食物繊維をよくとるようにしましょう。
■ 下痢・便秘交替型
腸の症状にあわせた食事を選ぶ。
薬 物 療 法
まず、第1段階で使用する薬は、過敏性腸症候群(IBS)自体に対して効果がある5-HT3拮抗薬・消化管機能調節薬・GC-C受容体作動薬・ゲル形成薬・粘膜上皮機能変容薬を使用します。その他、症状に合わせて止痢薬(下痢止め)・緩下剤(便秘の薬)・抗コリン薬(腹痛に使用)が使用される薬です。
第2段階では、消化管運動賦活薬・止痢薬・漢方薬・抗アレルギー薬・抗うつ薬・抗不安薬が第1段階での薬と置き換えもしくは追加して投与されます。
第3段階は薬ではなく専門的心理療法が行われ、薬の変更は主とはなりません。薬の選択は状態状況により専門的判断を要するため、専門医と十分相談して調整してもらう必要があります。
生活習慣の乱れは過敏性腸症候群の原因のひとつです。
過敏性腸症候群の症状改善のために、下記のように、日常生活の改善に心がけましょう。
善玉菌が増える環境を整えてあげよう
腸を健康に保つには、ヨーグルトや乳酸菌飲料をとっていればいいと思いがちですが、口から摂取して腸にたどり着ける菌の数は限られます。補うだけでなく、善玉菌が増える環境を整えてあげることも腸を守る大事なポイントです。忙しいからとパンやおにぎり、市販のお弁当などで食事を済ませていると、野菜や芋、豆、海藻類、果物などの食品が不足しがちです。食物繊維が足りず、善玉菌も増えてくれません。
過敏性腸症候群は、ストレスや生活のリズム、腸内細菌の乱れなどが微妙にかかわって発症します。おなかの不調を感じたら、ストレスと上手に向き合いながら、ふだんの食事内容やバランス、食事時間なども見直してみましょう。
治療により一時的に改善されても、再発することが多いため、定期的な薬の内服が必要になることもあります。
・お腹が張って苦しい、下痢など
過敏性腸症候群の中でもガス型は、ガスが腸内に溜まり、頻繁にガスが出る、お腹が張って苦しいなどの症状があります。また、ガスだけでなく下痢の症状もあるため、日常生活に支障をきたしてしまうこともあります。
・おならのにおいが強くなる
健康な腸であれば、それほどガスがにおうことはありませんが、過敏性腸症候群の場合、においが強くなる傾向があります。
そのため、ガス型に悩んでいる人の中には、「人前でおならが出てしまったら」という不安から、精神的な負担を抱える人もいます。
ガス型の過敏性腸症候群の原因はいくつか考えられます。
・ストレスで腸の動きが弱まる
過敏性腸症候群の原因といわれているストレスが溜まると、副交感神経の働きが弱まり、腸の働きも弱まってしまいます。
そのため、食べたものが腸の中に溜まってしまい、ガスが発生します。
・ストレスで腸の動きが活発になる
反対に、ストレスが原因で腸の動きが活発になることもあります。腸の動きが活発になることで、ガスが発生します。
・腸内に悪玉菌がたまる
食べたものが長時間、腸内に溜まっていると、悪玉菌が腐敗させてしまい、それがガスとして腸内に溜まってしまうので、おならの臭いが強くなってしまいます。
・呼吸が乱れている
緊張やストレスなどにより呼吸が乱れることで、空気を通常よりも多く吸ってしまっていることも、原因の一つとして考えられます。
1.運動療法
運動することで、自律神経に刺激を与えることができます。
ガスの溜まりや便秘の症状の改善が期待できます。ウォーキングなど軽い運動を毎日続けることがお勧めです。運動時間は長時間ではなく、15~30分程度で十分です。
2.食事療法
① 「水溶性食物繊維」をとる
食物繊維には、『水溶性食物繊維』と、『不溶性食物繊維』があります。
野菜はものによって、水溶性や不溶性に分かれます。きのこや海藻類などの水溶性食物繊維が豊富なものを意識してとるとよいでしょう。
●水溶性食物繊維とは
熟した果物、海藻類、芋類、オクラなどに多く、サラサラしたものネバネバしたものなど
② 「不溶性食物繊維」は控えめに
ごぼうなど不溶性食物繊維の摂りすぎは、腸への刺激が強く、便が固くなり、よけいに出にくくなることもあるので注意が必要です。
●不溶性食物繊維とは
穀物、豆類、熟していない果物、ナッツ類などに多く、ザラザラしたものやボソボソしたもの
③ 動物性のたんぱく質や乳製品は控える
逆にできるだけ控えたい食品は、肉類などの動物性のたんぱく質です。
動物性たんぱく質は腸の悪玉菌が増え、ガスのにおいも強くなるため、治療中は控えるようにしましょう。
また、乳製品も動物性たんぱく質であることから、症状を悪化させてしまうので症状がひどく出ている時には控えましょう。
④ 砂糖のとりすぎにも注意!
砂糖の摂りすぎも、腸の悪玉菌を増やし、善玉菌を減らしてしまいます。
⑤ 嗜好品は症状を悪化させる
カフェインやアルコール、たばこなどは刺激物であることから、症状を悪化させてしまいます。
⑥ 食べ過ぎない
食べ過ぎたり、間食しすぎると、腸の悪玉菌が増え、腸の煽動運動が鈍くなります。
適量を規則正しく食べることで、一時的に胃の中が空になり、腸の煽動運動が起こりやすくなると、便秘の解消にもつながります。
⑦ 水分はしっかりとる
水分が少ないと、便が固くなり出にくくなります。
便秘が続くとガスも溜まり、においも強くなってしまいます。ただし、冷たい水は腸を冷やしてしまうので、常温の水を一日に2リットルを目安に飲むようにしましょう。
3.薬物療法
運動療法と食事療法で改善しない場合は、薬物療法や漢方などが使用されます。
薬としては、腸の運動を整える薬や、プロバイオティクス(ビフィズス菌や乳酸菌など生体にとって有用な菌の薬)、また水分を吸収し便の水分バランスを調整する薬などが処方されることが多いです。