逆流性食道炎の病態は、胃酸分泌が亢進することと胃食道接合部(下部食道括約筋)のゆるみが本質です。例えばメタボ状態の患者さんが脂肪分、刺激系の食事を多くとると胃酸が過剰に分泌されますが、中年以降になると胃食道接合部にゆるみが生じ多量の胃酸(胃液)が逆流してしまいます。逆流性食道炎は肥満・タバコ・飲酒などの生活習慣の悪化、食生活の欧米化、ストレスなどにより日本人に増加傾向です。また、高齢者では、腰が曲がってしまうと食道裂肛ヘルニアが出現し、定常的な胃液逆流状態となります。
逆流性食道炎の症状は様々です。
症状は出現頻度の高い順に記載しました。
逆流性食道炎は、逆流した胃酸が食道の粘膜を荒らすために、起こる病気ですが、胃酸が逆流する原因は大きく分けると三つの原因があげられます。
下部食道括約筋の機能の低下があげられます。下部食道括約筋とは、食道と胃のつなぎ目の部分にあり、胃から食道への逆流を防ぐ働きをしている筋肉です。この下部食道括約筋が、老化などにより機能が低下してしまうと、胃酸の逆流が防げなくなります。逆流性食道炎は高齢者に多いのも、下部食道活約筋が弱まるためです。
胃酸の過剰な分泌です。油っこいものなど脂肪分が多い食品をよく食べるような欧米化した食生活を送っていると、食物の過剰摂取により胃の活動が活発になり、胃酸の分泌量が増加し、また胃酸の逆流が起こりやすくなります。
腹圧の上昇が逆流性食道炎の原因となります。具体的には、しゃがんだり重いものを持ったりするなど力んだり、肥満やベルトなどによる腹部の締め付けにより、胃が圧迫され腹圧が上昇し、胃酸の逆流が起こりやすくなるメカニズムです。背中が曲がった人に、逆流性食道炎が多いのも、胃が圧迫されることが原因です。
逆流性食道炎(胃食道逆流症)の診断は胃カメラ検査が最も適しています。
逆流症状から一時的に治療を開始された場合でも症状が長引く場合は、一度は胃カメラ検査をすることをお勧めします。
逆流性食道炎の治療は、薬物療法が中心になります。
お薬には、「胃酸の分泌を抑える薬」「食道の運動機能を改善する薬」「食道の粘膜を保護する薬」「胃酸を中和する薬」の主に4種類があります。
お薬の種類 | 働き | |
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① 酸分泌抑制薬 | PPI P-CAB |
胃壁細胞のプロトンポンプに働き、胃酸の分泌を抑えます。 |
H₂ブロッカー | 胃壁細胞H₂受容体に働き、胃酸の分泌を抑えます。 | |
② 消化管運動機能改善薬 | 逆流した胃酸を胃に押し戻します。 また、胃の運動を改善して胃からの排出を促進します。 |
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③ 粘膜保護薬 | 食道粘膜の傷口に働き、胃酸による傷害を防ぎます。 | |
④ 制酸薬 | 胃酸を中和します。 |
一般的にはこれらの飲み薬を組み合わせて服用しますが、薬物療法で効果がない場合に、外科的手術をすることもあります。逆流性食道炎の外科的手術には、腹腔鏡手術や内視鏡での手術があります。手術では、逆流性食道炎の原因である、こわれた逆流防止機構の修復を行います。
多くの患者さんでは、食道裂孔ヘルニア(食道と胃のつなぎ目がゆるんで胃がはみだした状態)を併発しており、手術では、(1)ゆるんで大きくなった食道裂孔を縫い縮め、(2)次に、胸の中にあがった胃をお腹の中に戻し、(3)最後に、胃で食道を巻きつけることにより、逆流性食道炎の原因である、こわれた逆流防止機構を修復します。この手術は、噴門形成術(fundoplication)と呼ばれます。
治療を開始すると、通常は3日くらいから効き始めて、1~2週間で改善することが多いです。一時的に症状が改善しても再発することが多いので、長期間薬を飲み続ける必要になることもあります。食道粘膜の炎症が良くなるには約8週間はかかるといわれています。症状がなくなった場合でも、自己の判断で服用を中止しないようにしてください。
食道の病気として、近年食道癌も増えています。逆流性食道炎の症状であるつかえ感や違和感などは、食道がんでも認められる症状です。また重症の逆流性食道炎は、食道がんが発生しやすいことも知られています。近年では定期的な検診での胃内視鏡検査の普及や、検査機器の進歩によって、食道がんの早期発見例が増え、多くの患者さんで侵襲の少ない内視鏡治療が実施されています。胸やけなどの症状がある方は、胃カメラ検査を検討していただければと思います。